戦前前世

歌や音楽で組織の一体感を図る試みは、なにも近代に始まったわけではない。僕たち人類の祖先があなぐらで暮らす時代から既に実践されていた。それは儀式の一環としてではあったが、組織力を維持するために決して欠かせない行事だった。

時代が進むと次第に愛情や悲哀など他の感情も取り入れられるようになり、共通認識を得るための行事から芸術性を伴った娯楽文化に昇華していく。人々は若葉の生え際に無垢な精神を見出し、秋の紅葉を拾って熟れた恋心を連想するに至る。

戦場ではどの国でも太鼓や笛で勇ましい律動と音を響かせ、戦士たちの意欲を高揚させる。不幸にも友が死した時は荘厳な節奏とともに悲しみに浸る。どんな時でも音楽は僕たちの感情に染み入り、震わせ、なんらかの感情を引き出してきた。… 続きを読む

原始の平等に学べ

今日、呆けながらテレビを眺めているとNHKで「人類誕生」と銘打たれた特番が放映されている事に気づいた。これが存外に優れた出来栄えで思わず見入ってしまった。NHKの作る映像にはなんとなく垢抜けない印象があったのだが、今やそうでもないらしい。

僕たちの祖先は極めて原始的だったあの時点で、怪我人を介護したり死者を尊ぶ感情を備えていたという。それらは決して精神的余裕がもたらしたものではなく、むしろホモ・サピエンスはしばらくの間ずっと弱々しい種族だった。弱いからこそ群れる必要に迫られ、そのためには弱りきった者をも保護しなければならなかったのだ。

つまり、動物的な弱肉強食の掟から脱却する事こそが人類の生存戦略であった。弱さを社会性と技術力で克服した結実として今日の社会がある。技術力は個人の能力に依存しない効率的な集団を形成し、社会性は窮地に陥った人々を救済してきた。けれども近年の社会はそんな人類の叡智を捨て去ろうとしている。… 続きを読む

糖衣に包まれた毒薬

いわゆる「ネット右翼」が爆発的に増加したのは2002年頃の事だった。日韓ワールドカップでの一部の選手や観客の振る舞いを発端に、韓国人への蔑視感情や偏見がインターネット上で高まりだした。もっと遡ればパソコン通信の時代にもその手の集団は確認されていたが、公に広く認知されうる規模まで拡大したのはこの頃だ。

それ以来、2ちゃんねるのハングル板を中心として嫌韓思想は爆発的に伝播していった。10年以上経過したいま、そこから巣立っていったネット右翼の先達たちがあらゆる場所や業界で嫌韓を拡散させている。彼らは言論空間に強く根を張った。

僕には気に食わない漫画作品がある。その漫画…「テコンダー朴」は2007年頃に連載が開始された時はまだ無名だったが、ここ数年でネット上のミームとしてにわかに注目を浴びている。僕はこの作品を以前からよく知っていた。… 続きを読む

無賃労働の世界にようこそ

安倍政権の支持者に告ぐ。あなたがたが支持した政権が、昨日、僕たちを金銭に依らず働かせられる法案を衆議院で採決した。そう遠くない将来、ほぼ確実に無賃労働が常態化する世界がやってくる事になる。

どんな社会や組織でも、ずる賢い悪人は表面的にはそうと判らない名称を用いて本質をごまかそうとする。もちろん日本も例外ではない。これまで自民党が提唱してきた「働き方改革」もその典型例であった。

彼らは僕が生まれるよりもずっと昔から企業と資本家のための政党として増長してきたが、今回の件でより多くの人がそれを強く認識した事だろう。「働き方改革」とは実質的に「働かせ方改革」であり、主語は企業や資本家であって労働者ではない。… 続きを読む

イスラエル建国70周年の陰で

輝かしい栄光とされる足跡に屍体が連なっている。数日前、イスラエルは建国70周年を迎えた。同時に、パレスチナ人にとっては屈辱と弾圧の象徴でもある。70年前の5月14日、イスラエルの建国によって多くのパレスチナ人が突然難民の立場に追いやられた。

その昔、パレスチナの地は3つの宗教徒が共存している安定した地域だったが、19世紀末にユダヤ教徒の間で勃興したパレスチナ帰還運動が全てを変えてしまった。ユダヤ教にとってエルサレムは宗教的聖地であり、民族のかつての故郷でもあった。

彼らにとっては大昔に略奪された聖地と故郷を取り戻すための正当な権利運動なのかもしれない。とはいえ、その時代から1000年以上も経過したパレスチナに住んでいる人々からすればまさに寝耳に水の出来事である。… 続きを読む