2025/04/23

野良ARG(代替現実ゲーム)の魅力

最近、ARG(代替現実ゲーム)の配信動画を観ている。ARGとは現実に存在するなんらかのコンテンツに操作介入を行い、得られた情報をもとに攻略を進めていくゲームのことだ。コンテンツの種類はWebサイトをはじめとして、自宅に送付されてくる財布や日記帳、給与明細など多岐にわたる。 中でも僕のお気に入りは『愛宝学園かがみの特殊少年更生施設』だ。Webページ上で情報を探索して段階的に謎が解き明かされていく仕掛けが物語の没入感を一層高めている。正直なところ、こういった話を一本の小説で読んでもさほど感心しなかったと思われる。この手の筋書きは巷にありふれているからだ。 しかし、情報のみが存在していて語り手が不在というジャンルの特徴、物語の真相に辿り着くためにおのずと深読みを試みる仕様が実態以上の中毒性を引き出している。小説でも「読みだしたら止まらない」との惹句は頻出だが、ARGは主体的に対象物を操作する特性上、完璧に解き終えるまではなにをしていても現実と地続きの感覚がついて回る。 Read more

2024/07/10

星新一をくれたお巡りさん

2003年のある夏の日。僕はいつものように本を読みながら下校していた。人も建物もまばらな田舎町の通学路は足が覚えている通りに歩き続けるだけで家に着く。時折、足の裏に意識の一欠片を分け与えると、じきに靴底が土くれを踏んでいる感触を伝えてだいたいどの辺りを歩いているかが分かる。道中に道路が未舗装の区間があるため、そこまで来れば半分は歩いたことになる。 たとえ東北の寒村であっても夏は蒸し暑い。6時間授業を終えた後でも、未だ空高く昇りつめた太陽がじりじりと首筋を焼き焦がして汗腺を刺激する。してみると、これはずいぶん不公平な話に思える。日本中どこもかしこも暑いのだから東京の子たちと同じく夏休みも8月31日まで続いてたっていいではないか。だが、事前に配られた冊子は今年も例年通り僕たちの夏休みが遅く始まり、より早く終わる過酷な事実を容赦なく告げてきた。 Read more

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