2025/05/14
魔法少女の従軍記者
この物語は2024年5月に頒布されたフィクション作品であり、実在の人物および団体とは一切関係ありません。
その少女は前線基地の会議室に舞い降りてやってきた。いや、舞い降りたという表現はいささか上品にすぎる。今日は作戦指揮に関わる国連軍の将校や事務方の重鎮、民間関係者、そして我々のような記者が一堂に会する最後の場――あけすけに言ってしまえば、これまで丹念に積み上げてきた法的手続きが実る時――つまり、ついに果実として収穫できる日だった。
そこへ、いきなり基地の天井を突き破って部屋に飛び込んできたのが彼女だ。当然、記者たちはカメラのシャッターを盛んに切りまくってこれに応じる。戦闘機の爆撃にも耐えうるように設計された最新の3Dプリンター基地を秒で破壊せしめた彼女が一体なにを言うのか、なんでこんな大それた真似をしでかしたのか、会議室の全員が固唾を呑んで見守った。実際、軍人としての彼女の性格は多くが謎に包まれている。
〝こんなガラクタの基地で本当に守りを固めているつもり?もっとちゃんとしなさいよ〟
〝3Dプリンター工場による大量生産物は自然破壊の大きな要因であり、抗議としてデモンストレーションを――〟
〝予行練習のつもりだった。後でもう一回やっていい?〟
正直、なにを言ってもらっても構わない。なんであれ絵になる。彼女の影響力は国家元首にも匹敵する。どんな内容であろうとも人々の注目を掴んで離さない。上へ上へぐんぐん伸びていく株にはぶら下がっておくのが得策だ。
しかし、私が予想していたどの台詞とも異なり、彼女は長いブロンドの髪の毛をわたわたとたくし上げてこう言った。額に汗を滲ませ、年相応の焦りを見せた様子で。
「今、何時何分?たぶん、ギリ遅刻じゃないと思うんだけど」
結論から言うと、彼女が基地の天井を破壊して会議室に突っ込んだのは午前八時五九分、五五秒。遅刻五秒前だった。
彼女こそが、私の今回の取材対象だ。本作戦の要、国連指定魔法能力行使者、兼、映画女優。PR上の都合で我々報道関係者が『魔法少女』と呼んでいる人物との出会いだった。
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