2024/12/04

革探しの旅Ⅴ:革靴編

前回の外伝的前日譚。観ていない人も多いので話が合わせづらいやつ。身につける位置こそ違えど鞄と靴には大きな関連性がある。クラシックな革鞄を選んでギラギラのランニングシューズを履くと、一般にトータルコーディネートの難易度は飛躍的に高まる。同様に、スポーティなリュックを選んでピカピカのドレスシューズを履くのはかなり困難だ。 逆に、鞄と靴の意匠とカラーリングが合っているともうほとんど完成形に近い。なにも手がかりがない中から探るよりも、絶対に譲れないアイテムを前提にセットアップを組む方がファッションでもゲームでも効率的にビルドを構築できる。上級者向けと見せかけて実は手堅い戦略なのだ。 もっともこれは僕が何年も惰性で履き古した靴を総入れ替えするための方便に過ぎない。なにしろ鞄と同じく靴も一、二足では用を足しきれず、シチュエーションに備えて何足も揃えておかなければならない。そんなわけで秋口から今まで僕はずっと、様々な店で革靴を物色していた。 Read more

2024/11/21

塩売り

ある時、サークル主のendenが言った。「食塩水に漬けてみたんですけど放っておいたらなんか良い感じになったんですよね、これで本を作りたい」手に持った容器には塩の結晶が浮いた紙だか発泡スチロールだかが入っていた。「え? これで……本を……?」数ヶ月後、この話は現実のものとなる。 当サークル『Gradierwerk』は異常装丁本の制作を行っている。第一弾の『戦略級魔法少女合同 黒点』において装丁が高く評価されたこともあってか、彼はさっそく次のアイディアを試したがっていた。塩の結晶が固着した本のイメージから、作品のテーマは環境について幅広く取り扱うSFに決まった。その名も『環境SF合同 圏界面』だ。後ろの2文字は僕が考えた。 Read more

2024/10/15

(企業側で)転職フェアに行ってきた

土曜日。休日出勤である。本来は先輩の社員が行く予定だったのだが、代休目当てに(平日はゴルフ場が安い)仕事を強奪したのだ。人から奪い取って得する上に感謝までされることってなかなかない。しかし、あまりにも目先の欲に囚われて請け負ったものだから、当日の段取りがろくに頭に入っておらず電車の中で一夜漬けならぬ朝漬けをする羽目と相成った。 結局、典型的な指示待ち人間と成り果てた僕は会場に着くやいなや、右に貼れと言われた用紙を貼り、左に置けと言われたプレートを置き、気づけばそれなりに見栄えのするブースが出来上がっている。同様に、前後左右に並ぶ他社のブースも各々の特色をめいいっぱい凝らしたであろう装飾で満ちあふれていた。 Read more

2024/10/09

革探しの旅Ⅳ:トートバッグ編

前回の外伝的続編。けっきょく観ないといけないやつ。ショルダーバッグの選定が落ち着いたところで次はトートバッグを検討する。まったく難儀な代物だ。紙袋同然のもっとも基本的な形状をしているだけに品数がやたら多く、そのぶんよく研究されている。簡単なものなら自分で作ることもできる。僕も昔に作った覚えがある。どれも同じと見せかけて実は細部が違う。 しかし、単に作りやすいからトートバッグはバッグ界の一角を長らく占め続けてきたわけではない。それだけ圧倒的に便利だからだ。ショルダーバッグが決まりきった携行品を出し入れするのに適した鞄だとしたら、トートバッグはそれ以外に適している。大抵なんでも入るし、なんならなにも入っていなくても許されが発生する。 ショルダーバッグはこうはいかない。峻厳な世界観である。携行品が過不足なく入っていないショルダーバッグは完全に失敗している。クイックスロットになにも登録していないプレイヤーがいたらそいつはヌーブだ。つまり、ショルダーバッグをスカスカにしていたり、逆に出し入れしにくいほど荷物を詰め込む輩がいたら、そいつはショルダーバッグを使いこなせていない。 Read more

2024/09/21

家系へのシフトチェンジ

昔、ラーメン二郎がとても好きだった。徒歩圏内に二郎インスパイアが2つあり、さらに学校から自転車で行きやすい距離には目黒店もある好立地に恵まれていたおかげで、麺もヤサイもニンニクも不足する日はなかった。どうしてトッピングが全部カタカナ表記なんだろうという疑問とは裏腹に、昼も夜も二郎に通い続けた。間違いなく当時、身体を構成する成分のうちの何割かは二郎だったと思う。 大量の油脂と炭水化物とたんぱく質を飲み込むように胃袋に叩き込むと気分が高揚してとてつもない満足感に包まれる。完食にかかる時間は短ければ短いほど望ましい。15分よりも10分、10分よりも5分で食べきれば脳みそから染み出す快感がより一層高まっていく。大学に進学した後も最寄りの二郎系を探したのは言うまでもない。 Read more

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