2016/02/13

ゲーミング用USB-DACという選択肢

序論

その昔から、サウンドカードというディヴァイスは存在していた。それは当初、ビープ音しか鳴らす事のできないコンピュータに一定の音声出力機能を持たせる程度のものでしかなかったが、時代の要請に応えて次第に複雑な音響処理を行えるようになってきた。

やや遅れてUSB-DACと呼ばれる外付けのD/AコンバータもPCオーディオの旗手として勃興した。サウンドカードはコンピュータの内部に組み込む都合上、ハードウェアの構成によってはどうしてもノイズの発生が避けられなかったが、音声の処理を完全に外付けの機器で行うUSB-DACはコンピュータ由来のノイズから逃れる事が可能であった。

しかし、以前のUSB-DACには音声入出力に一定の遅延が存在していた。これは複雑な音響処理を並行して行うPCゲーム、とりわけ競技性の高いジャンルでは致命的と言わざるを得ないだろう。21世紀に入る頃にはマザーボードにも音声処理機能が備わるようになっていたが、あくまで単純な代物に過ぎず、低い音質やCPUリソースの消費等、まだまだ懸念は多かったのだ。

その点、サウンドカードは低遅延、高音質、専用のプロセッサによる効率的な処理、独自のサウンドエフェクト…etcなどを提供していた。どれもゲーマーにとっては重要な機能である。他方、あくまで音楽再生用途を主とするユーザはこれらの機能よりもノイズの遮断を優先し、USB-DACを使用し続けた。つまり、ほんの数年前までは使用目的に応じて適切に住み分けが行われていたのだ。

結果、サウンドカードはよりゲーミング用途に特化し続け、USB-DACはより音楽再生に特化するようになった。一部、ONKYO製のサウンドカードなどの例外も存在していたが、この趨勢を変えるには至らなかった。大きな変化が訪れたのはごく最近の話である。

これまでゲーミング用と銘打ったサウンドカードは事実上、Creative社の独占状態にあったのだが、彼らは自らそれらの製造を次々と終了しーあろう事か、新たにUSB-DACを販売するようになったのだ。Creativeは以前もUSB-DACを販売していたとはいえ、これらは低廉な代替品でしかなかった。しかし、今や公式サイトを見れば判る通り、USB-DACは完全に彼らの主力製品と化している。

思うに、この大きな変化はPS4の世界的な流行が理由だろう。サウンドカードはコンピュータの拡張スロットに挿せなければ使えないが、USB-DACならばコンシューマ機にも対応できるからだ。Creativeにとってこの大きな市場は既存のサウンドカード市場を切り捨ててでも乗る価値があったのだ。

オンボードサウンドも徐々にまともになってきているこのご時世、敢えて不利な武器で戦い続けるよりも将来性のある分野を開拓する方がより良いはずだ。PCゲーマーから見てもその選択に誤りはないように思える。

レビュー

以上の現状を鑑みて、僕はこれまでTitanium Professional AudioやTitanium HDといった製品を使用してきた筋金入りのサウンドカード派だったが、この機会にUSB-DAC(Sound BlasterX G5)に移行する事にした。

正直、開封してすぐに思った事は「こんなに小さい機器から本当にまともな音が出るのか」という疑問だった。上の画像を見れば判る通り、小型のUSB-DACとして知られるHP-A3(画像左上)よりもさらに小さい。本体の側面には内蔵プロファイルと後述する「Scoutモード」、ゲインの切り替えボタンが備わっている。一番最後以外はドライバーソフトウェア上からも簡単に変更できるので、恐らくPS4などのコンシューマ機に接続する事を想定して作られたボタンなのだろう。

かつてCreativeのドライバーソフトウェアと言えば不安定かつUIも貧相で、おおよそまともな評価は得られない代物だったが、この新しいソフトウェアは良く出来ている。設定項目も適切に整頓されており、カーソルを合わせるとツールチップも表示される。デフォルトではこのソフトウェアでの設定が優先されるので、いちいちWindows側の設定を確認せずに済むのも大きい。

そして肝心の音質だが、値段なりには良い音が出ているように思う。もっとも、稀代の名作であるTitanium HDと比べれば若干劣るが、それでもTitanium PAやZよりは高音質に感じられた。特にこれまでオンボードサウンドしか使ってこなかった人達は十分に満足するはずだ。

ただ音を出す以外にも、ゲーム毎のイコライザプロファイルや、FPSゲーム等の足音のみを強調するScoutモード、ボイスチェンジャー、仮想サラウンドなど、この製品には豊富な機能が備わっている。ゲーミングオーディオ界のオールインワン製品と言っても過言ではない。

最後に何より驚いた事は、これまでゲーミング用途としてのUSB-DACを語る際に必ずセットで付いてきたあの遅延が一切感じられなかった点だ。正確な測定をした訳ではないので体感でしか言えないが、どのようなジャンルのゲームをプレイしていても問題は見られなかった。一番大きかった懸念が払拭されたのは素直に喜ばしい。

総括

今後、USB-DACはゲーミング市場でも主流になっていくだろう。対応機器の幅広さ、使用の簡便さ、遅延問題の解消など、あらゆる部分がサウンドカードを上回っている。しかし、唯一の問題はPS4にしろコンピュータにしろ、オンボードサウンドが大半のユーザにとって十分まともな選択肢になっているという点である。

そんな中、実売価格1万7000円以上のUSB-DACを購入する人はそう多くは居ないだろう。必要な機能をより厳選し、高い音質を保ちつつ価格を落としていく事がゲーミングオーディオ業界の課題となりそうだ。

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