2020/12/09

事実だけでも印象操作が可能な実例

いま世界中で合衆国大統領選挙に関するフェイクニュースが飛び交っているが、事実だけでも印象操作は十分に可能である。本記事はその実例の一つを示す。

一昨日、あるニュースが発表された。下記はその引用文となる。

日本学術会議会員の男逮捕
下半身触る姿見せた疑い 商業施設内で自分の下半身を触り、その様子を女性店員に見せつけたとして、兵庫県警西宮署が県迷惑防止条例違反の疑いで、豊田理化学研究所フェロー、川村光容疑者(66)=名古屋市名東区=を逮捕していたことが7日、県警への取材で分かった。川村容疑者は日本学術会議の会員。

なるほど日本学術会議とやらの会員が性犯罪を犯したらしい。これは実にけしからん。そうだ、日本学術会議といえば、詳しくは知らないが問題になっていたなあ。こんなふしだらなやつが会員になっているくらいだから、やはり菅さんの言うことは正しかったのかなあ。

……このWeb版の見出しを作った記者が期待した反応は、おおむねこんなところだろう。 僕の邪推を司る器官がそう囁いている。というのも、容疑者男性には他にもっと着目すべき肩書があったからだ。豊田理化学研究所フェローである。フェローとは主に研究者に与えられる称号のことで、彼はその中でもとりわけ参画の度合いが大きい常勤フェローとして名を連ねている。

このことから豊田理化学研究所での業務こそが容疑者男性の本職なのは疑いの余地がない。それは産経新聞社も本当は理解していると思われる。なぜなら下記の画像のとおり、同紙の紙面においては豊田理化学研究所フェローとして彼を紹介しているからだ。

つまり産経新聞社はWeb版に限り、何らかの意図をもって容疑者男性をあえて見出しで日本学術会議会員として報じたことになる。 他にも、新聞社としては毎日新聞が同様に「学術会議会員逮捕」と後追いで報じている。

理由はいろいろ推測できる。一般人にあまり馴染みのない肩書よりも、最近の出来事で知名度が高まった日本学術会議を引き合いに出した方がPVが稼げるからかもしれない。あるいは、僕の邪推を司る器官が書かせたように……もしかすると、イデオロギー的な都合なのかもしれない。

実はこうした事例は珍しくない。今回はたまたま産経新聞だったが、朝日新聞や日経新聞だってやっているかもしれない。いずれにせよ、単に事実であることはその報道内容の正当性を必ずしも担保しない。

認識力に限界を持つわれわれ一個人がとれる最大の防衛策は、できるだけ多くの政治信条が異なる報道機関から情報を得て、せいぜい多角的のものを見る癖をつけることくらいだろう。

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