2024/08/18

すごいぞシミュレーションゴルフ

シミュレーションゴルフを契約して半月ほど経った。かつて会社帰りにバッグを背負って自転車を漕ぎ、わざわざ練習場に行っていた面倒を思えば最寄り駅を降りて即座に球が打てるのは凄まじい文明開化ぶりである。それでも僕がこれまで現実の世界にこだわっていたのは、やはりリアルに飛んでいく球しか信用ならず打った気にならないという固定観念ゆえだった。

しかし現実世界はタイパもコスパも悪い。自転車で往復するだけでも何十分もロスしているし、月極で打ち放題の形態をとるシミュレーションゴルフと比べて練習場は行けば行くほど金がかかる。なにより「リアルに飛んでいく球」といっても、所詮は敷地面積次第だ。近場の練習場は150ヤードが限界なのでロングアイアン以上で打つとどのみちほとんど区別が付かない。

それに、漫然と球を打つばかりの練習では学びが少なくなってきた。打った球のデータなり、芯を食った時のスイングの録画なりがないと改善のきっかけが掴みにくい。レッスンでも受けていれば話は別だろうが僕は超ケチなのでよほど行き詰まらないかぎりは我流でいくつもりだ。だってレッスンに払うお金でコースに行けるじゃん。

そこへいくとシミュレーションゴルフは「リアルに飛んでいない」という一点のみを除き、僕の要求のすべてを満たしている。今後、どこか違う街に引っ越した時も敷地をとる方の練習場が近くにない場合は大いにありえても、シミュレーションゴルフがないことはまずありえない。ゴルフをやらない人にはピンとこないかもしれないが、都市圏の駅前ならマジでどこにでもあるくらい店舗数が増えてきている。慣れた練習環境を継続できるのはありがたい。

そういうわけで僕はシミュレーションゴルフで練習を始めた。映画オタクの観点からは完全にナンセンスな傷だらけのたわんだスクリーンに、淡くややチープな3Dグラフィックスが広がる。当然、シミュレーションゴルフにも色々種類があってこれは「3D BIGBAN」という日本製の機材らしい。もともとこの分野では日本のメーカーが先行していたが近年は韓国メーカーの勢いがすごいのだとか。韓国もゴルフ大国だしな。

とはいえ、さすがBtoCの業務用機材なだけあってUIの動線は洗練されている。契約時に一応説明を受けたものの、仮にいきなりマウスを渡されても操作にはさほど困らなかっただろう。球筋の計測分析を行うドライビングレンジモードとオンラインゲームの体裁で仮想のコースを回るモードがあり、僕は今のところ前者のみをやっている。だが、後者もなかなか面白そうではある。要はマリオゴルフをフルマニュアル(すなわちゴルフクラブ)でやるような感じだ。

ドライビングレンジモードが起動したら後は据え置きの球を所定の位置に置いて打つだけだ。一球打つたびに任意の2点に置かれたカメラが録画を行い、都度スイングを確認することができる。再生速度も調整可能なため画質の微妙な粗さの割にけっこう細部まで検証が行える。たとえば以下の録画は0.25倍速で再生されている。

全体的には正しくハンドファーストでダウンスイングになっているし、フィニッシュの動きもそれっぽい……が、7番アイアンにしてはややオーバースイング気味で力が入りすぎているようにも見える。実戦ではコースを歩き回りながら何度も球を打つので、たとえ様に見えても疲れやすいスイングはあまり好ましくない。事実、うまいプレイヤーはもっとサクッと打つ。

肝心の分析結果は以下の形で表示される。実を言うと僕はずっとドライバーの飛距離の割にアイアンが飛ばないことが悩みだったが、自身の録画とYoutubeのレッスン動画を突き合わせてスイングの改善を徹底したところ、以前より20ヤード近くも飛距離が伸びた。センサを基に描かれるバーチャルな球筋といえど、その時々の手応えや感覚を決して裏切らない数値が出てくるので今では全幅の信頼を置いている。

飛距離が1ヤード単位ではっきり判るとなにが嬉しいのかと言えば、どのクラブで何ヤード飛ぶべきかの課題設定が明確になるところだ。通常、アイアンは番手ごとに約10ヤード刻みで飛ぶというから、7番アイアンで150ヤード飛ぶ僕は5番アイアンなら170ヤード、3番アイアンなら190ヤードは飛ばないといけない。もしその通りに飛ばないとすれば、特定の番手の練習が足りないと結論付けられる。

ドライバーやウッドも同様である。特にドライバーはクラブのヘッドスピードに5.5をかけた数値が飛距離の理論値とされているため、速度の割に飛んでいない場合はどこかで無駄な動きをしていると考えられる。僕のヘッドスピードは43〜45m/sなので最低でも236.5ヤードは飛ぶべきであり、実際にちゃんと飛んでいる。こういったデータ分析も計測環境あってのものだ。

ちなみにシミュレーションゴルフの『本体』は頭上にあった。この機材に内蔵されたセンサが床のゴルフボールや、振られたクラブを捉えて様々なデータを取得しているのだろう。今や都市圏のどんな駅前にも仮想のゴルフ場があり、老若男女のあらゆるゴルファーたちがデータから日々学びを得ている……。こうしてみると、ゴルフってめちゃくちゃオタクのスポーツだ。

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