前回の外伝的続編。けっきょく観ないといけないやつ。ショルダーバッグの選定が落ち着いたところで次はトートバッグを検討する。まったく難儀な代物だ。紙袋同然のもっとも基本的な形状をしているだけに品数がやたら多く、そのぶんよく研究されている。簡単なものなら自分で作ることもできる。僕も昔に作った覚えがある。どれも同じと見せかけて実は細部が違う。
しかし、単に作りやすいからトートバッグはバッグ界の一角を長らく占め続けてきたわけではない。それだけ圧倒的に便利だからだ。ショルダーバッグが決まりきった携行品を出し入れするのに適した鞄だとしたら、トートバッグはそれ以外に適している。大抵なんでも入るし、なんならなにも入っていなくても許されが発生する。
ショルダーバッグはこうはいかない。峻厳な世界観である。携行品が過不足なく入っていないショルダーバッグは完全に失敗している。クイックスロットになにも登録していないプレイヤーがいたらそいつはヌーブだ。つまり、ショルダーバッグをスカスカにしていたり、逆に出し入れしにくいほど荷物を詰め込む輩がいたら、そいつはショルダーバッグを使いこなせていない。
一方、トートバッグにそういうハードルの高さはない。縦長の構造ゆえ、上から下に携行品をスタックしていく文化を許容している。好きに荷物を詰めていいし、空のままでも構わない。それはこれからなにかを入れるために予約されている空白だと見なされる。ショルダーバッグがクイックスロットなら、トートバッグはインベントリの世界観なのだ。
とはいえリュックサックと異なり、几帳面に整理整頓していればインベントリであっても一定のクイックスロット性を発揮しうる。内側にポケットが付いていると特に嬉しい。僕は小ポケット2つ、ジッパー付きポケット1つの構成が好きだ。小ポケット2つに財布と小物入れ、ジッパー付きポケットにKindleが入るからだ。
そうした条件で選んだのが、本稿シリーズではお馴染みOrganのショルダートートだ。一応、他のブランドも見て回ったがこのミニマルさと質感を兼ね備えた鞄はなかった。名前の通り、持ち手を伸ばすとショルダーバッグに変身する。「ツーウェイ」にありがちな持ち手が2種類ついているのとは一味違う洒落っ気だ。
トートバッグに期待されるのはあらゆる目的に広く適うファンクショナリティと、際立ったシンプルなシルエットである。僕はもともとショルダーバッグでもなるべく装飾の少ないものを選んではいるが、やはりトートのモノプレートな外観には敵わない。ゆえにどんなファッションにも適合する。
ちなみに、僕はマグネットで口を閉じられるタイプが好きだ。クイックスロット性がより高まる。いわゆるビジネストートだとジッパーが配されていて、分厚く、底面には床置き用の鋲が打ってあったりするが、本革にそれらの実装を期待すると極めて重たくなる。重心で負荷が分散されやすいショルダーバッグでも1kgを超えたらしんどいのに、フルスペックの本革ビジネストートは平気で2kg近くする。きっとお堅めのビジネスマンたちは鞄を武器に競合他社と殴り合う世界観なのだろう。
それにひきかえ今回買ったトートバッグは750gとたいへん肩にジェントリーに作られている。僕もこうありたいものだ。なにも入っていない時は底をぺしゃんこに畳んでいける。もし皆さんが就職等を経てなにか立派な鞄を新調したいと思ったら、手始めにトートバッグから検討してみてほしい。リュックサックはなんでも入るがすぐに出せない。ショルダーバッグはすぐに出せるがそんなには入らない。トートバッグは見事にその中間で、大抵の需要を充足せしめる。
おまけ
でも雨の日は使えない。だって本革だもの。そういうわけで、ペアとなる防水帆布製のトートバッグも手に入れた。帆布のトートバッグは革製よりもさらに多く出回っているため、商品選びはひどく難航した。ビジネスとカジュアルの両方に使って差し支えがなく、太い号数の糸で縫われていて丈夫、かつ防水加工が施されていること、などを念頭に2ヶ月ほど真剣に探し続けた。ついでにカタカナ英語を乱用するのもやめた。
結果、たどり着いたのが香久山鞄のシカクイトートだ。誠に恐縮ながらネーミングセンスはやや残念と評せざるをえないが、商品自体はとてもよくできている。まず、持ち手が牛革なのが良い。ここまで布だったらカジュアル寄りすぎてあまり関心しなかったに違いない。6号帆布を使っているのも良い。体育館のマット並に丈夫で、そうめったには破れない。
パラフィン加工による防水もちょうど良い。下手に高度だと防水効果が失われた後の変化が予想しにくいが、パラフィン加工の原料は蝋なので経年変化が比較的おとなしく、最終的には普通の鞄に戻る。非常に持続可能的な作りだ。
実際、上の写真は横殴りの雨を浴びて帰ってきた直後に撮ったのに、まるでなにもなかったような澄まし顔で佇んでいる。加えて、小ポケット2つ、ジッパー付きポケット1つの条件もクリア、底面に鋲も打ってある。しかし帆布なので重さはたったの650g。もはや実用上はこれだけで十分事足りるのではと問われたら反論はかなり難しい。
かくしてショルダーバッグとトートバッグの構築が完了した。僕にとって理想的に荷物を出し入れできる環境がついに整ったと言える。ところで、いま一番欲しいのは鞄を出し入れできる空間である。なにしろ、さすがに10個近くもあると目当てのものを取り出すのに少々苦労する。