目が疲れてメガ疲れた。およそ3年半前、Monokaiの輝きに眼球が敗北して他のカラースキームに乗り換えたのは未だ僕にとって記憶に新しい。あの後、実は乱視が回復していたり眼鏡を買い替えて視界が良くなったりなどの僥倖に恵まれたものの、やはり寄る年波には勝てないというのが正直な感想だ。
服とか道具とかにビビットな配色を選ぶのは一向に差し障りがない。僕の水筒はピンクだし、弁当箱もピンクだし、布鞄の一つはオレンジだ。これらは時々しか目に入らないから脳の欲求が常に優先される。しかし、カラースキームだとそうはいかない。
なにせ毎日最低8時間、色付けされた文字列を見つめ続けなければならないのだ。モチベを保てるのはせいぜい昼過ぎまでが関の山。夕暮れ時には気を抜いた目ん玉にマゼンタやらオレンジレッドやらの光線が容赦なく突き刺さる。3年半前にはアラサーとか言って茶を濁していた僕も、気がつけば三十路の世界に堂々入場を果たしていた。
となると、再びカラースキームを刷新せしめるのはまことにシリアスな急務と言える。さっそく勤務時間にもかかわらずvimcolorschemes.comを眺めていたらあっという間に時間が溶けた。なにしろ、ただぱっと見の印象が合っていれば良いわけではない。
僕の場合、脳の評価が高いものは大抵目に合っていない。知覚的にビビットな色合いを好みすぎているがために、疲れきってからようやく眼球経由でクレームが入る。遺憾ながら精神は肉体の下位構造であり、肉体という名の衆議院に可決された法案はわれわれ精神が属する参議院には決して覆せないのだ。
Vim環境においては、そのカラースキームが各プラグインに正しく対応しているのかも極めて重要となる。特にTree-sitterと連携できていないと配色がだいぶ物足りない。他にもあれやこれやと数え切れないほど多くの対応すべきプラグインがあり、どれか一つでも満たしていなければ、どこかのタイミングで発色がおかしくなってしまう。今時のカラースキーム製作者の苦労ときたら計り知れない。
本気で移行するならターミナルやデスクトップ環境の配色もぼちぼち合わせなければならない。こういう時にやたらカスタマイズ性の高い実装系を運用していると、変えようと思ったらいくらでも変えられるだけにセルフでハードルが上がっていく。時には参議院の意見に圧される状況もなくはない。
さて、以上を踏まえてまず真っ先に思いつくのはかの有名なgruvboxだ。オリジナルよりmaterialの方が落ち着いていて個人的には好ましい。暖色系の筆頭ゆえ、ありとあらゆるソフトウェアに対応している。その気になればシステム丸ごとをgruvbox風に統一するのも不可能ではない。
久しぶりにこのカラースキームを試用してみて驚いたのは、こうした色調に昔ほど拒絶感がなくなったことだ。なんなら一周回ってノーブルにさえ見える。とはいえ、しかし、いざ使ってみると僕にはまだ若干早すぎる感じが否めない。もうほんの少しだけ、明るさが欲しい。悩める三十路。相反する価値観の板挟みだ。じきに下からは守りに入った、上からは見通しが甘いと言われ……。
最終的に、終業までたっぷり時間を溶かして選んだのはeverforest-nvimだった。Luaで書かれている方。色合いが緑に寄っているおかげで暖色系ながらも一定の清涼感を兼ね備えている。実は、本稿もこのカラースキームを適用してしたためている。文字が暗い生成りみたいな色で少々地味だがそのぶん疲れにくい気がする。
かくして目と脳の立場を体よく御しつつ、三十路サラリーマンのカラースキーム選びが完了した。などと言いつつも、前のカラースキームとgruvboxも一応インストールしておいて常時切り替えられるようにしておく。この玉虫色の立ち回りこそが厳しい社会で生き抜く秘訣ってわけよ。