2026/01/14

創元SF短編賞に応募した

賞レースに参加するのは久しぶりだ。学生の頃はよく応募していた。自分の作品はあまりにも褒められる。当時、ライターの職も手にしていた。自分は文章がうまい。そんな自負をしっかりへし折ってくれる存在が、他ならぬ賞レースであった。誠に遺憾ながら、僕は最終候補まで残った経験が一度もない。

何度かは、すごくいい線までいった。編集部から直々に電話がかかってきて、惜しくも最終候補には選ばれなかったがこれこれこういう課題があり、このように修正すれば受賞できるポテンシャルはある、云々。だが、僕の作品はついぞ受賞はおろか、最終候補にも残ることはなかった。

それから年月が経ち、就職すると小説を書く暇そのものがなくなった。さらに数年が経ち、労働者としての要領を覚えて再び筆を手に取った時、作品は書けても賞レースへの気勢を失っている自分に気づいた。ひとたび職業人の立場に充足すると、なにがなんでも作家という感じではなくなってくる。

ここ一、二年は同人サークルの活動が快適に進んでいることもあり、別にずっとこのままでもいいではないかと思わないでもない。事実、娯楽としては十分に贅沢だ。このご時世に文芸にうつつを抜かせて、稼ぎや蓄えにも事欠かないなど、そうそうある話ではない。

だが図らずも、これは会心の出来だ、と自画自賛に値する作品ができた時、眠っていたはずの競争心がにわかに目を覚ますのを感じる。ふとした拍子に、自分の作品はもっと世間に知らしめられてもよいのではないか、と野心がまろびでる。折しもちょうど、手元に自分にとっての傑作があり、第一七回創元SF短編賞が催されていた。

いくらか調整すればぎりぎり枚数上限で応募できる。そう確信した直後、自分でも驚くほど軽妙な手つきで文字を削り取っていった。元の校正時にはあんなに固執していた表現も、いざ応募を前にすると手がバックスペースキーを連打せしめる判断は早かった。

結果、元々の作品が持っていたテーマ性は減ってしまったが、それでも特に重要な一つのテーマを保った応募作が完成した。改めて読んでみると、やはりどこか物足りない気がする一方で、むしろ読む人によっては簡潔でまとまりが良いと感じるかもしれない、と妙に前向きな感想が浮かんだ。

もし賞レースに臨んでの改稿でなければ、決してこのような感想は生まれなかっただろう。つまり僕は、忙しくて時間がないとか、すでに充実しているなどと口では言っていても、実際には競争に焦がれていて、自分の作品が容赦のない審判に晒される瞬間を望んでいたのだ。

賞レースの選考が始まってから最初の結果が分かるまで、だいたいどこも一ヶ月くらいはかかる。この間のなんとも言えない生殺し感が、まるで心臓に小釘が食い込んだような微妙な重しとなって日々ついて回る。就職活動と異なり手触りも手応えもない。とはいえ、さすがに一次選考くらいは通るのではないか? いや、しかし、なにか手違いがあれば……。 思っているほど面白くはない可能性も……。

そうして最初の選考を通過したらしたで、今度は心臓の釘がひとまわり大きいものに取り替えられる。皮肉にも選考に通れば通るほど、釘はどんどん重くなっていく。学生の時分と異なるのは、その重しを心臓に負っていても、職業人としての振る舞いに翳りを見せてはいけないところだ。さながら封印されかかった生ける屍の気分である。

思い返せば、学生の頃には屍と化す自由が多少あったと思う。それがたとえ社会や周囲にとっては取るに足らない些事でも、自分自身が消耗しているふうだったら「ああ今は屍なのですね」と人々は優しく納得してくれ、事が過ぎて人間に舞い戻ってもリビングデッドとの誹りを受けて突然に銃殺されたりはしない。

対して、ひとたび屍と化した職業人が人間に蘇生しても、本当に額面通りに扱ってくれるかは甚だ疑わしい。そうは言っても内臓が腐っているのではないかとか、隙あらば人を食らうつもりなのではないか、と四六時中色眼鏡で見られる。自分がリビングデッドではない証明は何人にもできないので、結局は時間をかけて周りが納得してくれるのを願うしかない。

かつての文芸仲間が就職とともに一旦筆を置いた後、二度と帰ってこなかった気持ちが分かる。ただでさえあれこれ心配する出来事が増えていくなかで、賞レース独特の緊張感をまともに受け止め続ける余裕はなかなか生まれない。

中には息を吸うように複数の賞レースに応募して、年がら年中選考期間という常在戦場じみた環境に身を置く猛者もいると聞くが、あるいはやるならそれくらい徹底した方がいっそ楽かもしれない。剣を持ったリビングデッドはダークナイトに二次転職できる。ひとまず僕は試金石として、自分が屍に陥らずに賞レースに挑み続けられるか確認したい。

ところで、体裁の整った梗概を久しぶりに書いた。大抵の賞ではせいぜいが四〇〇文字から八〇〇文字くらいの上限を、短編賞にもかかわらず四〇文字×四〇行で一枚分書いていいのはずいぶん寛大に思われたが、いざ書いてみるとあっという間に埋まってしまった。

こうして、作品の文量が上限二〇枚中十九.八枚、梗概が一枚中〇.九五枚という文字通りの限界作品が生まれた。伸るか反るかなどと言わずにあっさり伸びきって銀河系の突端に達してほしい。

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