じきに春が訪れようとしている。草花が芽吹き桜が舞うこの季節は街中の景色も華やいでくる。これらの環境変化は服装の配色にも影響を及ぼす。黒やダークネイビーの分厚い外套がベージュや中間色のトップスに変われば、おのずとボトムス、そして靴も環境に適応せざるをえない。そう、春夏は白スニーカーの季節でもあるのだ。
白スニーカーは無数に存在する。世界中のあらゆるメーカーやブランドが販売している。黒スニーカーと双璧をなす定番中の定番ゆえ、きっとどこの誰の靴箱にも一足や二足の白スニーカーがあるだろう。カジュアル化された現代の服装であれば、何人もまったく意識せず白スニーカーを履くことができる。それを前提に作られているのだから当然だ。
しかし一方、僕のファッションはクラシックである。まず春が来るとカーディガンとシャツの組み合わせが増える。ボトムスにはコットントラウザーズを合わせる場合が多い。季節が進んで夏に近づくとカーディガンをやめてシャツ一枚になる。ボトムスは厚手のリネントラウザーズに変わる。完全に夏が来るとシャツもシアサッカーかリネンになり、ボトムスは薄いリネントラウザーズの出番が多くなる。たまに半袖のポロシャツを着る。
上記のセルフィーは春のコーデだが、要するに100年前から戦後直後くらいまでの格好をほとんどそのまま踏襲している。Vゾーンが生まれたらネクタイも締める。そうすると、どうなるか。靴も100年前の基準に合わせなければならない。にもかかわらず、現在よく見かける白スニーカーは戦争の顔をしていない。
いや、真面目な話、当時のスニーカーといえば軍用のトレーニングシューズから派生した代物が大半だったのだ。トラウザーズもネクタイもシャツも多くは軍服の影響を受けている。そうした文化的系譜のもとに育ったファッションと、そうでないものの組み合わせは残念ながらあまり良くはない。

上記はクラークスの店舗で典型的な白スニーカーを履いた時の写真だ。例によってコットントラウザーズを着ている。悪くはないけどなんか違う……のが伝わるだろうか? かっちりしたボトムスの雰囲気に対して、白スニーカーのぷっくりしたカジュアル感が浮いて出てしまっている。デニムパンツなどを履いていれば問題にならないが、僕はよそ行きの用途ではめったに履かない。
やはりクラシックファッションに白スニーカーは難しいと感じる。僕はスタンスミスのDECONというモデルを愛用しているが、持っているのは黒だけだ。黒スニーカーは現代的なデザインでもクラシックファッションに合わせやすい。ごく限られた意匠しか備えていないスタンスミスでさえ、白になると急にやんちゃな雰囲気が漂ってくるから不思議なものだ。
実はこうした一連の事象は界隈ではよく知られた課題であり、いくつか回答が打ち出されている。一つ目はそもそもスニーカーを履かないことだ。世の中には白の革靴もあるし、コンビシューズを選ぶ手もある。だが、快活な気持ちが勝る春夏の時期に革靴で何万歩も歩けるかと言われたら甚だ疑問である。
二つ目は昔から存続しているデザインのスニーカーを履くことだ。たとえばイタリアのスペルガやドイツのジャーマントレーナーはまさしく時代精神を表すスニーカーであり、どちらも自国の軍隊のトレーニングシューズであった実績がある。実際、僕も昔はスペルガの靴を持っていた。また新たに一足買えば決着がつく。
ところが、昔と今では足の形が変わったのか、はたまたスペルガが木型を変えたのか分からないが、まったく自分の足に合わなくなってしまっていた。めちゃくちゃ小指が当たるのに踵が浮くひどい有り様で、機械的にサイズを上げ下げすればなんとかなる問題ではない。というわけで、おのずと解決策は最後の三つ目に絞られる。伝統的な革靴に似た見た目のスニーカーを買うことだ。
つまり靴底が縫製(マッケイ製法やグッドイヤーウェルテッド製法などで作られた靴)ではなく、アッパーの部分だけが革靴っぽいものを選べば歩行性とコーデの両方の課題を解決できる。ただし、ビジネスや冠婚葬祭で間に合わせに履かれるような製品は質が良くない。様々なブランドをあたった結果、この分野におけるパイオニアと言っても過言ではない大塚製靴のレザースニーカーに辿り着いた。
この製品には色々と嬉しいところがある。まず、ただ革靴に擬態したデザインではないことだ。よく見ると白色の装飾がジャーマントレーナー風かつコンビシューズになっており、革靴とスニーカーの融合を目指す気構えが見て取れる。次に、履き心地が申し分ないこと。わざわざ六本木の直営店まで行ってじっくり試着したが、これに勝るスニーカーはないと感じた。
そして最後に、なんとスニーカーなのに革靴みたいに靴底を修理してもらえる。4万円もする高級スニーカーなのだから望まれるべきアフターケアとは思うが、類似の価格帯でも公式で修理を受け付けているブランドはほとんどない。セメント製法の靴は使い捨てなのが業界の常識だ。しかし彼らはそこのところをうまくやってくれている。そんなわけで、僕の答えはこれに決まった。

見ての通り、コットントラウザーズとも完璧に調和している。リネン素材に変わっても問題は起こらないだろう。問題があるとすれば、大塚製靴のWebページがあまりにも楽天すぎてなかなか購買意欲が湧かなかったことくらいだ。もし足を運べる場所に実店舗がなければ決して買う気にはならなかっただろう。これだけは本当に、可及的速やかになんとかしてほしい。