2024/01/16

論評「THE CREATOR」:王道と向き合う勇気

はじめに この映画自体が公開されたのは昨年だが、様々な事情の末に僕が本作を視聴したのはDisney+を通じてだった。というのも、本作のあらすじにはどうにもぬぐいがたい不信感が潜んでいたからだ。もったいぶるまでもなく簡単に説明すると、本作は高度に発達した機械(人工知能)と人間が対立を余儀なくされる話である。 うわあ、なんて斬新な世界観なんだろう! 今すぐ映画館に駆け込んで、どんな物語なのか観なくちゃ!……と、思うような人は、たとえSFに明るくなくても今時いないだろう。誰でもすぐにターミネーターやマトリックスを脳裏に描くことができる。もう少し詳しい向きなら、ブレードランナーやアシモフ作品を連想するかもしれない。 Read more

2023/05/14

論評「NOPE」:空飛ぶ円盤に今時マジになる

数ある都市伝説やSFの類型でも「空飛ぶ円盤」ほど古典的なものはそうない。いわゆるUFOってやつだ。歴史を遡れば世界大戦にすら登場しているぐらいだから、きっと古事記にも載っているのだろう。ところで僕はUFOと聞くと、なぜかいつもアメリカの田舎の牧場が思い浮かぶ。夜中になるとUFOがふわふわとやってきて、牧場の牛を吸い上げてしまうんだ。おそらくはこれも人生のどこかで挿入されたステレオタイプに違いない。 当然、映画史においてもUFOは長らく主力の題材であり続けた。SFはもちろん、ホラーにしてもよし、ファンタジーにしてもまあよし、なんならどのジャンルだって構わない。初っ端から派手に地球を爆撃してもいいし、思わせぶりに出たり隠れたりしてもいい。こんな好都合なものがアルファベット3文字で表せて、世界中のどの老若男女にもおおむね同一のイメージを想起させるなんて滅多になさそうな話だ。 Read more

2023/01/11

論評「自由への道」:一緒に祈ってくれ

僕の知るかぎり本作はウィル・スミスが授賞式で司会者を殴って以来、初めてスクリーンの前に姿を現した作品だ。あの件への賛否はともかく、ひとまず業界追放は免れたようで安心した。僕は「バッドボーイズ」と「メン・イン・ブラック」に端を発する割と熱心なウィル・スミスファンである。あまり挙がらないが「アイ,ロボット」のスプーナー刑事役もなかなか良い味が出ていた。 「幸せのちから」で息子と共演を果たしてからというもの、なにかと自分の子供と出演したがる悪癖がついて回り一時期はだいぶ心配していたが、本作の出来栄えを見るにどうやら杞憂だったらしい。実在の脱走奴隷を演じる大役を彼は見事にこなしてみせた。暴力の代償ゆえアカデミー賞関連行事には10年間出られないが俳優としては今後もきっと安泰だろう。彼に復帰の機会を与えてくれたAppleほか関係各位に感謝したい。 Read more

2023/01/03

パソカタ諸氏へ

なぜ僕の周りではゲーム・オブ・スローンズやウエストワールドが一切話題に上らず全員アニメの話をしているのかということを一生考えてきた。情報系オタク(人生の大半をパソコンカタカタで過ごしてきた人間の、総称)は上の世代も下の世代もアニメばかり見ている。話数が多いと尻込みしてしまうのかとも思ったが、まだ1シーズンしかないイカゲームとかもまるで存在しないかのようだ。よく知られたタイトルでもこんな有様だから、その他大勢の単体映画については言うまでもない。 Read more

2022/12/22

論評「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」:映像革命再び

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」を観た。いつも映画の感想は1ツイート程度で抑えていたが、本作についてはもう少しなにか書けそうな気配があったのでブログ記事に起こすことにした。以降、分野ごとにいくつかの見出しに分けてそれぞれ論じていく。なお、本エントリはネタバレありとなる。各自注意されたし。 CG/VFX まず着目すべき点は映像の美しさである。先日、前作「アバター」を復習した際も13年の年月を疑う映像美に唸らされたが、本作にとって過去の自分を乗り越えることはあまりにも容易だったらしい。IMAXレーザーで強化された視覚音響効果も相まって、まさしくエンターテイメント作品の新しい頂点を築き上げたように思う。 Read more

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