2025/04/14
論評「漁村の片隅で」:特権性の自覚
誰しも己の特権性を自覚するのは辛いものだ。自分の成功はまるきり自分ひとりの手柄だと信じ込みたいし、逆に自分の失敗は不運や周囲の環境、ひいては社会や国家に帰責したくなる。たぶん、いくらかは双方ともに事実なのだろう。卓越した成功は相応に自己研鑽ゆえであり、愚かな失敗は相応に不運や環境が招いている。現代社会の成り立ちは複雑怪奇でどんな成功や失敗も一人では抱えきれない。
しかし、あまりにも奇跡的な実例を目の当たりするとそういう中庸っぽい考え方がただの御為ごかしにしか感じられなくなってしまう。「みんな辛いのは同じなんだ」と先進国の中心で熱唱すれば肩を組んで一致団結できるかと思いきや、世界の片隅に属する人々の辛さは明らかに同等ではない。我々が空気を吸うかのごとく得ている物事が、彼ら彼女らにとっては宝石に値するほど得難い贅沢品なのだ。本作の物語はそれをまざまざと体現している。
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