タイトルについて
当初、本エントリのタイトルは 「プログラマが観るとより楽しめる洋ドラ三選」 になるはずだった。しかしすぐに 「いやプログラマに限定するのはおかしいな。インフラエンジニアだって当然楽しめる」 と思い直し、タイトルを「エンジニアが観ると…」に修正した。が、ここでまた手が止まった。「なにも職業エンジニアに限った話ではないな」
実際にそうなのだ。紹介する作品群はどれもコンピュータをある程度かじっている人なら十分楽しめるように作られている。こうして対象範囲をどんどん拡張していった結果、現在の珍妙なタイトルが生まれた。さすがにこれ以上広げるつもりはない。
仮に本エントリが数百年後まで参照可能だったとしても「人類」の定義は残念ながら執筆時点でのものに限られる。したがって、機械生命体や地球外生物によるクレームは受けつけかねる。そもそも僕、その頃にはもう死んでるし。
なぜ楽しめるのか
コンピュータの知識に覚えがある者なら誰しも一度は思うことがある。フィクション作品におけるIT関連の描写が、あまりにも雑すぎる。 実際のプログラミングは変な音がピロピロ鳴ったりしないし、やたらグラフィカルでインタラクティブな操作画面も用いない。緑色の半角カタカナが縦に流れたりもしない。視聴者を視覚的に楽しませることを優先しすぎた結果、すっかり不正確な描き方が根付いてしまったと見える。
もっとも、これはケチな難癖なのかもしれない。CGで作られた派手なシーンに力学の観点から批判を加えたり、職業モノやスポーツモノの作品に現実味がないとマジツッコミを入れるようなものだ。所詮はエンタメなんだから、観て楽しければそれでいいじゃないか? うーん、確かにそうかも……。でも、でもさあ、もし、ガチで作り込んだ作品があるとしたら、それはそれで観たくない? よし、今すぐ観よう。
MR.ROBOT
■あらすじ
昼間はセキュリティエンジニアとして働く主人公。その裏の顔は類稀なハッキング技術で悪人を罰するダークヒーローだった。彼の最大の目標は、あらゆる事業を手中に収める世界最大の巨大企業「E CORP」を破綻に追い込み、件の企業が持つ膨大な債権情報を抹消して強制的に格差を是正させることである。
精神障害者にして重度の薬物中毒者でもある主人公はしばしば現実と妄想の区別がつかなくなる。ゆえに彼は内に眠る狂気や葛藤と戦いながら、名だたる悪徳企業に指先一つで打ち勝たなければならないのだ。さしずめ現代版の「ファイトクラブ」と言えよう。ジャンルはクライムサスペンスで徹頭徹尾シリアス。
■みどころの一部
・主人公はGNOME派だが「E CORP」の執行役員とたまたま雑談になった際、役員に「私はKDEを使っている」と言われて「巨大企業の重役がLinuxユーザだと?」と驚くシーン。しかもこれが伏線になっている。
・主人公はハッキングする時のみKali LinuxをUSBフラッシュドライブからブートさせ、普段はLinux Mintを使用している。これは自身がハッカーだと捜査当局に勘づかれないための偽装工作と見受けられる。確かにKali Linuxはそういう用途に悪用されやすいディストリではある。
・作中では「E-OS」という架空のOSとして描かれているが、どう見てもWindows7なOSをリカバリモードで立ち上げ、特定の.dllファイルを書き換える手法でアドミニストレータのパスワードを上書きするシーン。このハックはかつて本当に通用した。
シリコンバレー
■あらすじ
主人公はシリコンバレーの人気IT企業に勤めるプログラマだが、社内での立場は芳しくない。独立を目指してアプリケーションの開発に取り組むも、仲間ともどもまともなアイディアが浮かんでこない。そんな中、ようやく形になってきた製作中の音楽アプリケーションが、なぜか異常なファイル圧縮効率を示していることが本人の知らぬまま勤務先の上層部に伝わる。
そう、主人公が意図せず作りあげていたものは新設計のデータ圧縮アルゴリズムだったのだ。かくして彼は巨大企業からの買収交渉や起業、社内闘争などの絶え間ない諍いに身を投じていく。というと半沢直樹みたいだが、ノリは完全にコメディそのもの。以前はAmazon Prime Videoで観られたが今はU-NEXTの独占配信枠に移ってしまったところが玉に瑕。
■みどころの一部
この動画だけで十分に伝わると思う。延々とこんな感じ。
ドラッグ最速ネット販売マニュアル
■あらすじ
高校生のコンピュータオタクがドラッグのネット販売に手を染める物語。実際の事件をモチーフにしているものの本作はコメディ路線の緩い雰囲気で描かれ、IT関係のミームが盛んに登場する。
留学先から帰国してすっかり垢抜けた彼女に別れを切り出された主人公は、彼女を振り返らせるためにドラッグのネット販売で金儲けを企む。予想以上の収益を稼ぎだしてしまった彼は事業拡大に乗り出すも、様々なトラブルに見舞われてだんだん後に引けなくなっていき、やがてドツボにはまる。
先の二作と異なるのは本作がモキュメンタリー形式で制作されているところだ。時折、主人公や他の登場人物がインタビューに答える体裁で発言するシーンが挟み込まれたり、主人公の突飛な行動に対して主人公自身がツッコミを加えたりする。それらが上手く軽妙さを演出しており、ゴリゴリのミーム要素を含む作品にしてはハードルが低く感じられる。一話あたりの尺が約三十分と短めなのも取っつきやすさに優れる。
■みどころの一部
・コーディングスタイルに関する具体的な言及。識別子がすべてスネークケースで書かれている様子から彼氏によるコーディングだと気づく女の子が登場するなど。
・GAFAをはじめとする巨大テック企業への皮肉が面白い。その辺りのジョークに理解があると毎話笑いっぱなしで楽しめる。
・本作は高校生が主要な登場人物なので、ITガジェットに対する認識や人間関係のもつれ方に世代ならではの価値観が色濃く反映されている。なかなかインモラルな内容の作品ではあるが特に高校生には観てほしい。
最後に
色々言ったけどピロピロ音にド派手画面のハッキングシーンもそれはそれで嫌いじゃない。