2021/08/14

鉄フライパンで塊肉を焼いて食え

「標準メシ」バージョン2.0。改良点はチェダーチーズを上に載せただけだが、はっきり言ってめちゃくちゃうまい。

「標準メシ」朝食エディション。鉄フライパンで焼いた目玉焼きは白身がカリッとしているのに黄身は半熟のままで最高にうまい。加工肉には様々な問題が指摘されているが、それでも菓子パンなんかを食うよりはずっといい。少なくともタンパク源にはなる。

ステーキ。説明不要のうまさ。

前回の続き。メニューそのものに大きな変化はないが調理方法を変えた。都市部の単身者には二口コンロを置ける家に住む金がない。置けても両面焼きグリルが搭載されたコンロなんて買う気にならない。じゃあどうするんだ。単身者はまともな塊肉のソテーなど食えないと申すのか。ずっとレンジでチンの蒸し肉とかで戦うしか術がないのか。そんなことはない。われわれには鉄フライパンがあるじゃないか。

なんでテフロンのフライパンじゃダメなんだ?と思うかもしれない。なぜかっていうとあれは鉄と比べて火の通りが均一じゃないからだ。生姜焼きに使うロース肉くらいまでならこの弱点が露呈することはないが、塊肉とかハンバーグを焼こうとすると途端に支障が出てくる。均一に火が通らないということは、表面だけ焦げて中身は生、とか中心だけ焦げて端っこは生、とか、そういうおぞましい事態が避けられなくなる。

となるとテフロンのやつらが考える対策は、せいぜい蓋をして弱火で長時間焼くってところだな。そうすると実際に火は通るようになる。だが蓋をすると今度は肉から出た水分――水蒸気の逃げ場がなくなる。そいつが蓋に溜まって肉に垂れる。つまり、肉がビシャビシャになっちまうんだ。あんた、肉の表面はパリッとしてる方が好ましいと思わんか? ハンバーグの場合は弱火だと肉汁を抑え込めなくなって外にあふれ出てくる。ゆえに弱火で焼いたハンバーグはパサパサになりやすい。「つなぎがないハンバーグは食べづらい」とか抜かす輩がいるけどな、原因のほとんどはそのせいだ。

ちなみに、大抵の鉄フライパンはどんな熱源にも対応している。あんたのキッチンに我が物顔でへばりついているコンロがたとえIHヒーターだとしても問題なく使える。だから買ってしまえ。 肉を焼くなら厚みのある方がいい。いわゆるスキレットというやつだ。なに? 「でも鉄フライパンって焼き入れとかしないといけないんでしょ?」 だと? 心配するな。なにかとものぐさなあんたのためにシーズニング済みの製品を見繕っておいた。

これを買え。単身者が塊肉を焼くには十分な大きさだ。家に届いたら即使える。万全を期すならこんな感じで手動シーズニングしても構わないが、やらなくても差し支えはない。要するに、塊肉を良い感じで焼くのに必要な経費はたかが2、3000円程度で済んじまうのさ。 前回の遠赤外線セラミックバーナーのくだりで尻込みした連中もここへきてぐっと気持ちが高まってきたことだろう。あんたが食いしん坊ならこっちも検討しろ。こいつなら1ポンドのサーロインステーキでも収まる。

使い方はあえて説明するまでもないが一応しておいてやる。まずスキレットをコンロに置く。火をつける。つけたらしばらく待つ。分厚い鉄フライパンは温まるまで時間がかかる。取手はすぐに熱くなるから触るな。事前に百均でミトンを買っておけ。表面がしっかり熱くなったら油を入れろ。入れたら煙が出るまで待て。焦るなよ。換気扇はちゃんと回ってるか? 下手をすると火災警報機が鳴るからな。注意しとけ。僕は一回やらかした。

いけそうな雰囲気なら肉を入れろ。あんたの焼きたい肉が鶏肉なら焼く前に観音開きにしろ。やり方はググれ。そんなに難しくない。牛肉なら筋切りだ。これはもっと簡単だ。両方とも慣れたら秒でできる。味付けは、最初は塩コショウだけでも上出来だろう。まったくありがたいことに我が国の肉の品質は極めて高い。前回の記事でも言ったが鶏肉は絶対に国産を買え。 鶏もも肉にも鶏むね肉にもそれぞれの良さがあるが、とにかく絶対に国産だ。牛肉なら好みでいい。

で、入れたか? 鶏肉は皮の方が下だからな。間違えるなよ。入れたらすごい油が爆ぜてビビるかもしれん。だがそれでいい。火力は鶏肉なら中火と弱火の間くらいだ。牛肉はずっと強火でやれ。7分間焼いたらひっくり返して5分間焼け。牛肉は厚み2cmまでなら最初に2分間、ひっくり返して1分程度でミディアムレアになる。焼き終わったら火を消して待て。そのうち音が静かになる。落ち着いたらおもむろにスキレットの取手をむんずと掴み――ミトンを忘れるな――あんたが普段メシを食ってる場所まで運べ。スキレットは皿にもなる。保温性が抜群だから食い終わるまでアツアツのままだぞ。最高だろ? まあ、牛肉だと自動的にウェルダンになっちまうから良し悪しだけどな。

ここまできたらあとは食うだけだ。ナイフとフォークでひたすら肉を切り分け、食う。切り分ける。食う。切り分ける。食う。やがてタンパク質が全身を巡る。あんたの肉体は確実に満たされる。米はあまり食うな。胃袋にそんな隙間があるならもっと肉を食え。この調理方法に手慣れてきたら茹で野菜もスキレットに加えろ。ブロッコリーがおすすめだ。

食い終わったらスキレットをタワシでゴシゴシこすって汚れを落とせ。洗剤は使うなよ。油膜が剥がれてこびりつきやすくなる。洗い終わったらコンロで水分が飛ぶまで熱しろ。冷めたら片付けていい。鍋肌に油を薄く塗ってやるとより錆びにくくなるが、頻繁に使うならどっちでも構わない。

もしあんたにもう少しゆとりがあったり、二口コンロが搭載された家に住んでいる恵まれた単身者なら、厚みの薄い鉄フライパンを追加で買うとさらに捗る。なぜかって、別の鉄フライパンがあると炒め野菜が作れるからな。一口コンロでもスキレットの高い保温性をもってすればやれないことはない。肉を焼き終わったらすぐにコンロから外して、その間に野菜を炒めればいい。ピーマンと玉ねぎあたりは肉と合うぞ。

しかし、最優先に考えるべきなのはあくまで肉の摂取だ。健康的な食事と言われるとみんな野菜とかビタミンのことばかり考えがちだが、実のところわれわれに足りていないのはタンパク質なのだ。

このことは統計を紐解くとはっきり判る。われわれのタンパク質摂取量は戦後直後とほぼ変わりがないほど低い。食のレジャー化だの飽食の時代だのといった言説は上図が示すとおり、もはや完全に周回遅れになったと言わざるを得ない。なるほど確かに、食の多様化は進んでいる。工夫を凝らした一品料理とか、風変わりなスイーツとか、外国の料理なんかはずいぶん増えた。

だが、最近流行った食べ物や飲み物を頭に思い浮かべてみてほしい。だいたい糖質か脂質の塊じゃないか? コンビニでよく売れる弁当のおかずは揚げ物ばかりだったりしないか? そう、われわれの食事は栄養面でいえばむしろ貧しくなっているのだ。

別に糖質や脂質が常に悪者ってわけじゃない。ただ、現代のライフスタイルで単身者が何も考えずにメシを食おうとすると、おのずと糖質・脂質過多になってタンパク質やビタミン不足に陥ってしまう。この構造に問題がある。 そいつをどうにかすべく、僕はせっせとキーボードを叩いてあんたを説得しようとしている。

企業に大した責任は求められない。彼らはあくまで堅実な商品開発を行っているに過ぎない。揚げ物は食中毒のリスクが低いし、糖質はコストが安い。客もなんだかんだで手に取るから作らない理由の方が見当たらない。そもそも都市部の単身者自体が、自由で束縛されない生活を志向して生まれた存在だ。つまり、どうあがいても日頃の不摂生はわれわれの自己責任ってことになっちまう。 あんた、20代か、30代か? まだ不摂生が肉体を蝕む実感はないかもな。僕も28歳だから今のところはないが、将来を想像するとちょっと怖い。

コロナ禍ですっかり痛感させられたが、公的医療のリソースは決して無限じゃない。我が国の経済力が低下していくにつれて、今後おそろしいほどの勢いで先細っていく。誰でも3割負担で質の高い医療が受けられる時代はもうそんなに長くは続かない。あんた、人生の後半戦を身体のどこかがめちゃくちゃ痛む状態で過ごしたいか? 「人生太く短く」なんて虫も湧かないほど古ぼけたフレーズを今更持ち出してくれるなよ。ポックリ逝ける人間は希少だ。

そう――だから、今のうちから塊肉を食え。野菜を食え。2、3000円で鉄フライパンを買って、焼きまくれ。できれば運動もしろ。

©2011 Rikuoh Tsujitani | Twitter | RSS | 小説