2022/05/01

横倒しのWi-Fiマーク

Wi-Fiマークを横に倒したような印がそこにあればVisaタッチ決済が使えるとは公式の言であるが、伝統的に現金ニコニコ払いが尊ばれる我が国日ノ本においてそのようなOMOMUKIに欠けた小理屈は通用せぬ。ここ日ノ本にてタッチ決済を行うには真心のこもったネゴシエーションが要求されるのだ。それこそが大日本核心価値観の一つであるJOUCHOの表れであり、僕が遭遇しただけでも複数のパターンが存在する。本エントリではそれを簡単に紹介しようと思う。

事前申請式

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僕「スッ……(カードを財布から抜き取り、決済の意思表示)」  
店員「カードでお支払いですね! ではこちらの機械に差し込んでください!」  
眼前には黒色のカードリーダー。例の横倒しのWi-Fiマークが筐体の上部に見える。  
僕「アッ、アノ、タッチ決済ッテ……(1万回くらい噛んで10年かかって言い終える)」  
店員「あ〜〜! タッチ決済ですね〜〜! 少々お待ちください〜(10年間待機させられてすっかり老け込んだ店員)」  
黒色のリーダーの上部が淫らに発光し、いかにも我は主のものを待ち構えておるぞと誘ってくる。  
望みどおりにカードを押し付けてやるとたちまち甲高い嬌声をあげ、無事に決済完了。  
10年かかったので買ったものは全部腐ってた。

この形式がもっとも多いかもしれない。タッチ決済をすると宣言して初めてカードリーダーの機能が有効化される。理由は謎だが、おそらく電子決済に馴染みのないシニア層がいきなり発光しだした機械を見て失神しないようにするための配慮と思われる。そうでなくても不意に注意を引かれると固まってしまう人は少なくない。タッチ決済が行えるカードはもちろんIC決済も可能なので、あえて選択肢を狭めることによって手続きを効率化させる腹積もりなのだろう。

僕も決済のたびに店員の人生を奪うのは忍びないからこういう店では黙って差し込むことにしている。他にもタッチ決済専用のリーダーとQRコード決済用のリーダーがそれぞれ別に存在する場合も割とあり、レジの前が家電量販店の陳列棚みたいになっているとだいぶ萎える。

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僕「スッ……(カードを財布から抜き取り、決済の意思表示)」  
店員「カードでお支払いですね以下略」  
眼前のカードリーダーは既に発光している! 今回は早く買い物を終えられそうだ。  
僕はさっそくカードをリーダーに押し付けた。  
リーダー「(沈黙)」  
だがいつまでも音の鳴らないカードリーダー。  
一旦カードを引き剥がし、再び押し付けるも手応えはない。こいつはとんだ不感症だ。  
僕「アッ、アノ、タッチタッチタッタッタッ(混乱のあまりハングアップしたゲームのように音声がループする)」  
店員、状況を察して事情を説明する。  
店員「あー、うちはタッチの契約はしてないんですよ〜。差し込んでくださいね〜」  
僕「モルスァ(謎の擬音)」

世の中にはずいぶん奇怪な”契約”があったものだ。つまりカードリーダー本体はタッチ決済に対応しているのに、店側がわざわざその部分だけ無効化しているのだ。だからリーダーがいくらピカピカ光ってスタンバっていてもてんで意味がない。これを罠と言わずしてなんと言う。

この辺りの処置に慣れた店員は「またか……」みたいな雰囲気を醸し出しつつも事情を説明してくれるが、運悪く新人の店員にあたると僕と一緒に音声をループさせた後で上司を呼びに行く。そしてさらに無駄に時間を食い、その間に宇宙がビッグクランチを始める。最悪。

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僕「スッ……(カードを財布から抜き取り、決済の意思表示)」  
即座に眼前のカードリーダーが発光――我、カードを押し付け決済完了。  
店員「ありあした〜」  
僕「😊😊😊」

僕の近所だとイオン店内の全テナントがこんな感じでいける仕組みになっている。カードリーダーは一つ。レジの受け付け開始と同時にカードリーダーが有効化され、タッチ決済も可能。セルフレジでもボタンを一回押すだけですぐに決済できる。僕の時間も店員の人生も奪われない。最&高。

なぜどこもかしこもこうなっていないのか? どう考えてもこれが双方にとって一番楽じゃないのか。実際、僕はイオンで買い物をして決済手続きに10秒以上かかったことはほとんどない。セルフレジなら5秒以下で済むかもしれない。みんなイオン神の設備を見習ってくれ。……と言いたいところだが、それでもたまにレジ前でモタついている人を見かける。現実は厳しい。人類に買い物は難しすぎた。

愚痴

そもそも日ノ本政府に非接触型決済を普及させる気が本当にあるのなら、さっさと気前よく補助金をかけるなりすればいい。大仰な設備投資が適さない個人店はQRコード決済で間に合わせるとしても、少なくともチェーン店はタッチ決済に十分対応できるはずだ。

ところが現状はこういうひどい有様で、僕らは毎回声をヒクつかせながら店員にお伺いを立てなきゃならない。そんな面倒な状態ではすべて知った上であえて差し込む方を選ぶか、いっそ現金で払ってしまっても無理はない。そのせいで店側はタッチ決済の需要を見誤り、ますます設備投資が後手に回る……まるで絵に描いたような悪循環ぶりじゃないか。

ちなみに僕が普段使っているカードブランドはMastercardなので、厳密にはVisaタッチ™ではなくMastercardコンタクトレス™で決済していることになる。中身はどうせ同じ(NFC TypeA/B)だから意識する必要はまったくないのだが心配性な人にとってはやはり気がかりらしい。しかし、レジ前に延々と居座って店員をいたずらに老化させるのは勘弁してほしいな。

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