ずいぶん遅れをとった感は否めないがとうとう僕も念願の4K刷新を果たした。居間のテレビにはえらく金をかけておきながらPCディスプレイの更新を先延ばしにしていたのは少々もったいなかったかもしれない。なにしろテレビと違ってPCディスプレイとは四六時中ずっと目を合わせているのだ。
映像のみならず文字を読む時も4K解像度は雄弁にものを言う。このエントリもまさに新しいディスプレイで書いているがフォントの精細感には歴然とした差が感じられる。結論だけ最初に言うとやはり買って良かった。以降は購入に至るまでの過程と雑感を述べる。
最初の選択――27インチか32インチか
PC向けの4Kディスプレイでとりわけ商品数が多いのはこの2つとはいえ、いきなり後者を考慮に入れる人はかなり稀だと思われる。なんせ32インチはデカい。急ごしらえで用意した狭い机ではまともに設置することすらままならない。そうでなくても眼前に32インチを初めて置いた時の圧力といったらまるで壁を前にしているかのようだ。気圧されて作業どころではない。つい視点の置き場に困って、特定の位置にばかりウインドウを開いてしまう……。大抵の人はそんな想像をするから32インチには手を出さない。
ところが27インチの4Kディスプレイには別の問題がある。等倍表示した際に文字が小さくなりすぎるのだ。そこでやむをえず文字を大きくしてみる。そうすると、今度はボタンやパネルのUI周りと不整合を起こすので、結局は全体を拡大せざるをえない。125%? あるいは150%? いずれにしても4K相当の作業領域は失われている。文字がきれいに映るぶん決して無駄ではないが損失には違いない。
だが32インチは違う。32インチであれば等倍表示でもなんとかやれないことはない。いくらかフォントサイズを大きくする必要はあるかもしれないが、全体を拡大しなければならないほどではない。32インチなら4Kの作業領域を真に活用できる―― こういった認知の過程を経て、ようやく人々は27インチの他に32インチを考慮に入れはじめるのである。
かくいう僕も悩みに悩んで、最寄りのヨドバシで決心がつくまで展示品を睨み続けた。下は32インチ4K等倍の環境でターミナルを4つ開いた画像。1つあたりに小さめのラップトップに準じる作業領域がある。
誰にとってHDRが必要なのか
予め言っておくと映画を観ない人にHDRは不要だ。一般的な用途でHDR並みの高輝度を扱う場面はまったくない。というか、ごく普通のディスプレイでも輝度を100%にして使ったりなんてしない。むしろ長時間使う人ほど輝度を下げているはずだ。僕も30%まで抑えて使っている。こんな現状であえて高輝度を求める理由といったら、それはもう映画の視聴、それもHDR対応の映画を観るためでしかない。 32インチの選択がここでも活きてくる。
人によってはHDR対応のゲームかもしれない。僕は映画の方だった。せっせと構築した自室の上等なヘッドフォンオーディオで映画を鑑賞すべく、32インチの4Kディスプレイを背負って峠を越えてきたのだ。僕が買ったLGの32UL750は2019年発売の型落ちモデルだ。なぜそんな製品にあえて手を出したのかと言えば、これがピーク輝度600cd/cm^2を誇るDisplayHDR600認証取得のディスプレイだったからである。
DisplayHDR600を取得するには他の条件もある。実効コントラスト比が6000:1以上でDCI-P3も90%以上カバーしていなければならない。前者の条件を正攻法で満たすのは難しいため、ほとんどの製品はディスプレイの調光を部分的にコントロールする機能でコントラスト比を高めている。当然、この実装手法とて低コストではない。
もし現行製品で同等のものを買おうと思ったら、最低でも8万円はかかる。 しかし32UL750は3万円ちょっとで手に入った。代わりにベゼルが太いとかリフレッシュレートが60Hzしか出ないとかのデメリットはあるが、映画を観る上でそんなの関係あるだろうか? そういうわけで僕はあえて新古品に甘んじた。ベゼルレスとか言ってもどうせ非表示領域はあるからな。
映画野郎はVA一択
VAパネルがコントラスト比でIPSパネルに引けを取ることはまずない。有機ELとかいうチートパネルを除けばVAパネルの出す黒はリアルな黒そのものだ。確かにIPSパネルは視野角にも優れているし発色も美しい。やつがなにかともてはやされるのは納得がいく。だが、数多の映画作品が明暗の繊細なニュアンスをディスプレイに紡ぎ出そうとするその時、誠に遺憾ながらIPSパネルはまったくの無能と化してしまう。IPSパネルの黒は、黒じゃない。 どうあがいても白浮きする。高級パネルのNano IPS BlackでさえVAパネルのコントラスト比には及ばない。
低〜中価格帯の32インチディスプレイはVAパネルを採用している場合が多い。おそらくは製造コストの兼ね合いだろうが映画野郎にとってはむしろ僥倖と言える。僕はこれに関しては高かかろうが安かろうがVAパネルしか買う気はなかった。逆に言うと映画用途でもなければVAパネルを選ぶ利点は薄いので、ぶっちゃけ安物扱いされる事情も分からんでもない。強いて挙げるなら、PC上でたまに黒指定の色(#000000)に出くわすとマジで黒すぎてまじまじと見てしまうことくらいかな……。
総評
IT従事者にはデュアルディスプレイの信奉者が多いことを承知の上で、ユーザの志向によっては32インチ4Kシングルも十分に対抗しうる選択肢だと確信を得た。すべてが一枚で繋がっているおかげで変に目移りせずいつも画面の中央を捉えていられる。常に表示させておきたい情報がある人には依然としてデュアル環境が有力に違いないが、一つの作業に没頭することが多い人には広大な単一の作業領域の方がかえって効率的と評価できる。
補足:意外に重要なブラックスタビライザー
ゲーム関連項目にあるものだから僕にはもう無縁とゼロに下げていたが、ほどなくして暗色が潰れていることに気づいて元に戻した。どうやら50%が標準値らしい。とはいえこの値だと暗色がくっきり見えすぎてVimやターミナルの背景がうっとうしい雰囲気になるので30〜40%まで落としている。どの値に確定させるかは現在模索中だ。ちなみに、色合わせはこういうページで調整している。使用用途によって最適な値がだいぶ異なる項目だと思う。