2023/10/01

MatrixでDiscord/Slackを所有する

先日のDiscordの障害は華金を電脳空間で過ごそうと決めていた人々を絶望の淵に叩き込んだ。きょうびオンラインゲームをやるとなったらボイスチャットはほぼ必須であり、とりわけDiscordは当該の分野で支配的な地位を占めている。ちなみに、僕は独りで黙々とCounter-Strike2のランクマッチを回していたので関係なかった。静謐。 しかし他に寄辺のない異常独身男性が集結せしDiscordサーバを運用している立場としては、一つのサービスの死がコミュニケーションの喪失を引き起こしかねない現状はまったく好ましくない。彼らは他のSNSをあまり使わない。以前から代替ツールを模索してはいたが、企業運営の類似サービスでは面白みに欠けるし、かといってセルフホスト型だと「そのためだけのアカウント」が余分に増えてしまう。なにしろ従来の形態ではサーバごとに別のアカウントを作らなければならないのだ。 Read more

2023/09/24

クロスバイクを手に入れた

2010年の秋、僕は有頂天になっていた。ついに念願のクロスバイクが手に入ったのだ。ママチャリと比べて驚くほど軽く、余分な付属品が付いていない潔いフォルムに僕はいたく感銘を覚えた。ここから自分の裁量でなにを装備してもいいし、しなくたっていい。さしあたり僕が真っ先に取り付けたのはキックスタンドではなくスマホスタンドだった。 先立って入手していた最新のiPhone4を日がな一日中いじっていて感じたのは、このスムーズなGPSとグーグルマップの追従性を活かせばどんな場所にも迷わずに辿り着けるという確信である。たとえ土地勘がない遠方でも、あらゆる街路情報が高速3G回線の息吹に乗って手元までやってくるのだ。遠くに行く足さえあれば――そこで、高性能の自転車を買う運びと相成った。下の名前が「陸王」なくせにオートバイじゃないのかよと人々に10回くらいは突っ込まれた。 Read more

2023/09/18

夏の公死園

 全国高等学校硬式戦争選手権大會の準決勝、帝國実業と韋駄天学園の試合は佳境を迎えていた。共に十名いる選手のうち六名が仮想体力を失い退場を余儀なくされ、残る四名が市街地を模した公死園戦場の各所で互いに隙をうかがっている。帝國実業高等学校三年の主将、葛飾勇はこの時、昭和八九式硬式小銃に装着された弾倉が最後の一つだった。地道な基礎練習を怠らない生真面目な性分が功を奏して彼は装弾数を正確に把握していたが、同時にそれは自身の劣勢を否が応にでも自覚させられる重い錨となってのしかかる。最悪の場合、たった九発の残弾で残る四人の敵を倒さなければならないのである。 対する韋駄天学園の戦いぶりは賢明であった。むやみに弾を浪費して一か八かに賭けるより潔く撃たれて予備弾倉を戦場に残していく。準決勝でもやり方は変わらない。つまり、四人の敵の弾薬は依然豊富であって正面での撃ち合いではまず勝てる見込みがない。圧縮ゴムでできた硬式弾をしこたま浴びて痣だらけになっても、本人が直立している限りにおいて戦場に立ち続けられた昔とは違う。現行の仮想体力制度では胴体に四発ももらえば確実に退場だ。 勇は壁伝いに歩いて近場の建物の中に忍び足で入った。戦場を眩く照らす直射日光から逃れて部屋の陰に座り込み、ひとまず身体を落ち着かせる。片耳に押し込まれた通信機で仲間と交信したいところだが、周囲の状況が判らない以上はうかつに声を発するわけにはいかない。 ダダダダ、と硬式小銃特有の低い銃声が聞こえた。遠くでは、わああっ、と観客の歓声が波のようにこだまする。敵か味方か、どちらかがやられたらしい。観客席から見える大型の液晶画面でも、試合を中継しているテレビでも、各選手の仮想体力は常に表示されていて残り何発持ちこたえられるのか、何発撃てるのかが把握できる仕組みになっている。さらには複数の望遠カメラが刻一刻と変化する戦場の様子を捉えて、選手たちのここ一番の勇姿を映し出す。帝國中の臣民が関心を寄せる公死園の準決勝ともなれば、その視聴率は相当な規模だ。 勇は緊張のあまり息が詰まりかけた。監督の助言を思い出す。目を見開いて、腹の底で深呼吸を繰り返す。戦闘服の胸元に刺繍された帝國実業の校名が見える。彼はだんだんと気持ちが静まっていくのを感じた。一転、腰を落とした状態で建物の上階へと上がった。 ここへ入った理由は戦場を俯瞰するためだった。通常、背の高い建物は取り合いになるが序中盤の戦いで各方面に敵味方が散った現状では、むしろ忍び込みやすい戦況に変化している。残弾数で優勢を誇る敵は鉢合わせの混戦に至る危険を懸念して、平地で手堅く制圧戦を仕掛ける腹積もりなのだろう。 一方、ろくに連絡もとれず残弾も心許ない帝國実業は一発逆転を目指すしかない。狙うは応射の難しい高所から頭部への一撃だ。例外なく一発で仮想体力を奪い去ることができる。上階にたどり着き身を伏せた姿勢から慎重に窓を覗き込む。戦場の概観がじわじわと目の前に広がった。やや遠くに戦場を左右に貫く二車線道路が見える。その手前には商店街を模した背の低い建物が並んでおり、こちら側に近づくにつれて建造物は住宅地の連なりを帯びて密度が高まる。道路の向こう側には朽ちて荒廃した街並みが再現されている。当然、射線が通りやすいそこに味方はいないだろう。だが……。 硬式小銃の倍率照準で覗いた先に、崩れた建物の壁で小休止をとっている複数の人影があった。生き残りの四人がまとまって周囲を警戒している。予想通り、弾薬を温存した韋駄天学園は面制圧で押し切る方針に固めたようだった。勇はドーランを塗った額から目元に垂れる汗を拭って、そっと小銃を窓枠に立てかけた。 理想は一人一発で四人、現実的な見立てでも二人は仕留めたい。照準に映る四人のうちでもっとも動きの少ない一人に狙いを定めた。赤い十字が敵の足元から腰、腰から胸、そして頭へと這うように移動して、勇の呼吸が落ち着くにつれ左右のぶれが収束する。引き金の指をかける。 実弾よりも柔らかく大きい硬式弾は距離減衰が甚だしい。ある地点からくの字を描いたように急降下する。この遠距離射撃を当てるつもりで撃つ判断は、西の強豪たる帝國実業主将の自負心がそうさせていた。 勇は息を深く吸った後に、引き金を絞った。 直後、拡大された視界の中で一人が側頭部に硬式弾を食らって昏倒した。耳の通信機が敵の退場を報せる。残る三人が振り返る――銃声と照準の逆光からこちらの位置を把握するまでに約五秒――二人目の頭部に合わせて放った銃弾はそれて肩口に命中した。相手は顔をしかめて背を壁に打ちつけたが、まだ退場ではない。 ひゅん、と風を切る音が聞こえた。建物の外壁に衝撃が走る。相手はすでに応射を始めている。これ以上は撃ち合っても意味がない。成果に不満を覚えつつも窓枠から引き下がろうとしたその時、倍率照準の内枠に信じられない光景が映った。 崩れた建物の壁、彼らが拠り所としていた遮蔽物の裏から一人の味方が飛び出してきたのだ。ひと目で判る巨体――あれはユン・ウヌだ。手にはほとんどの選手が装備品に選ばない模擬軍刀の丸まった刃が光っている。ゆうに一町半は離れたここまでも彼の雄叫びが聞こえた。一撃で敵を退場させられる方法はもう一つある。模擬軍刀による急所命中判定だ。 「あの馬鹿!」 勇は肉体に刻んだ基本動作を放棄して窓枠にかじりついた。覗き直した照準の先では、盛んに軍刀を振り回すユンと敵が入り乱れている。これでは援護のしようがない。しかし、勇の耳に届いた叫びがわずかに遅れて意味のある言語として認知された。 「……てーっ! 撃てーっ!」 遠く彼方の味方は自分もろとも敵を撃てと伝えていたのだ。 一人を斬り伏せ、続けざまに斬りかかったユンはまもなく、後退して距離をとった相手の硬式弾を全身に浴びて倒れ込んだ。入れ違いに、勇の速射がまばらに二人の胴体に命中した。弾切れを知らせる撃鉄音が響く。 試合終了の笛が鳴る。 こうして、全国高等学校硬式戦争選手権大會の準決勝は帝國実業の辛勝に終わった。 Read more

2023/09/10

イーロン・マスクの尻舐めをやめられない

あからさまに炎上狙いの投稿がまんまと拡散せしめられている時、むしろ対立者の手によって行われている場合が多いように思う。よくもまあそんな日陰の冷えた石の裏みたいな投稿を見つけ出してきたものだなと感心せざるをえない。えてしてアカウント作成日が数ヶ月以内で、FFは数十人程度、投稿も数百程度だったりする。ひょっとしてわざわざ探し回っているのだろうか。 ここ半年の間にアクティビスト然とした人たちがぼつぼつとFediverseに現れた。最初は滔々と天下国家を語ったり、社会に潜む偏見について仔細に書き綴っていたりするのだが、大抵あまり長くは持たない。Fediverseでの彼ら彼女らは明らかに精彩を欠いている。なんせ怒りのヴォルテージを加速させる憎い敵も、自身の投稿に称賛を寄せる頼もしい味方も、Xにしかいないのだから。あそこではせっせと土をほじくり返して拾ったキモい虫を見せびらかせば、みんなぎゃーぎゃーと騒いでくれる。 Read more

2023/09/03

Forgejo+WoodpeckerでCI/CD環境を所有する

逆になにができないのか判らないほど多機能と化したGitHubだが、その機能性が仇となって限られた用途で使用するにはいささか煩雑な画面操作が増えたように思う。ghコマンドは確かに有用ではあるものの圧の強いUIと格闘するかCLIかの二択は少々極端なきらいが否めない。 そこで、自前の計算資源を持っている人間にはリモートリポジトリのセルフホスティングが検討される。世の中には絶対にissueやPRを受け付ける気がない雑多なコード片や、ごく個人的、ないしは見知った少人数のみのプロジェクトが存在する。そういった趣旨のリポジトリを管理するには、いっそGitHubよりもミニマルに設計されたサービスの方が快適に用を足せる見込みがある。 Read more

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