2021/03/20
書評「蠅の王」:愚かしさからの学び
前置き 未成熟な少年少女たちが文明から隔絶した環境で奮闘するさまは、それ自体が独特の芳香を放っている。そこには分別の行き届いた大人の理屈を軽々とすっ飛ばす爽快さと背中合わせのもどかしさ、計画に裏打ちされない行きあたりばったりの邪悪さ、脆く壊れやすくもあり、同時に修復されやすくもある刹那的な人間模様……などが、渾然一体となって詰められているのだ。
本作は巻末の訳者あとがきで既に一定の解説が為されており、キリスト教的なモチーフが用いられていることや、ある種の寓話的性質の色濃さについて言及されている。従って、今さら同様の筋からアプローチしても単なる繰り返しにしかならないので、本エントリではもっと地に足の着いた素朴な難癖に重点を置きたいと思う。
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