2023/07/31

あらゆる状況が僕にコーヒー豆を煎れと告げていた

中年男性がハマりがちな趣味というものがいくつか存在する。蕎麦、チャーハン、パスタ、カレー……そしてコーヒー。多分に漏れず、僕も30歳に相成る過程でそれらすべてにしっかりハマってきた。だが、コーヒーだけは最後の一線に踏みとどまってこらえていた。なぜなら、生豆とさして変わらない価格で最高の焙煎を行う店があったからである。 横砂園と名乗るその店は、コモディティの手頃な品種からスペシャルティの高級銘柄まで幅広く網羅していながら焙煎度合いも選べて、注文した当日中に発送もしてのける圧巻のホスピタリティとコストパフォーマンスを兼ね備えていた。今思えばありえない話だ。通常、どんなサービスや商品であっても速い、安い、良いのうち同時に二つしか満たせない。 すなわち、安くて良いものは遅く、速くて良いものは高い。さもなければ誰かにしわ寄せがいく。「よほどコーヒーが好きなんだなあ」などと能天気でいた僕ときたら、まったく救いようがない。実際には、店主ひとりの過酷な労働によって辛うじて成り立っていた商いだったのだ。 Read more

2023/07/15

30歳の節目に電子の家を建てた

かつての時代では30歳で家を建てることが国民共通の目標だったらしい。1993年、バブル経済の崩壊とともに日本は凋落の道を転がりだし、国政では55年体制が終わり細川内閣が発足、IT分野ではWindows3.1日本語版が発売された激動の年。僕は岩手県とかいう人間より牛の数が多いスカスカの大地にオギャーと誕生した。多分に漏れず、家は新築だった。 時に、西暦2023年7月11日。僕は30歳の誕生日を迎えて名実ともに中年男性と相成った。世相はずいぶん様変わりしたが僕もやはり家を建てた。ただし、肉体の収容を差し置いてインターネット上におけるアイデンティティやコンテンツコントロールの確立を重視した背景から、僕が建てた家は鉄骨でも木でもなく電子情報でできている。 Read more

2023/07/08

尻から10億番目のThreads所感

映画でも漫画でもよくある、主人公を散々苦しめた手強い悪役がさらに強い悪役に瞬殺されるシーン。どういうわけか僕はあれが好きだ。やっとの思いでしのいだ悪役をさらに上回る敵がいるという戦慄、恐怖、のみならず、その敵は同じ悪も容赦なく屠る冷酷さをも持ち合わせている。主人公たちは今後そういう強敵を相手にしなければならない……。 実のところ、我々が目の当たりにしているのはそんな光景なのかもしれない。数々の事業を成功させ大富豪に登りつめたイーロン・マスクは今や、同様に栄華を極めるマーク・ザッカーバーグにひねり潰される寸前だ。SNSに巣食う悪辣な左翼を成敗してくれたと快哉を叫んでいたインターネットのオタクたちもずいぶん口数が減ってしまった。 Read more

2023/06/26

GNU Social JP管理人 対 僕

「太陽を盗んだ男」という名作邦画がある。異常な理科教師が紆余曲折の末に自室で小型原爆を作って日本政府を脅す話なんだけども、原子力を太陽に例えたタイトルが素晴らしいのはもちろんのこととして企画段階で付けられた仮題も僕はけっこう好きなんだよね。 「日本 対 俺」 っていうんだけどさ。腹から声を出して読み上げるといかにもシュールで面白い。 まあしかし現実はえてして地味なもので日本政府と戦った城戸誠とは及びもつかず、僕が今回挑んだのはGNU Social JPの管理人なわけだ。レスバなんて何年もしていなかったからずいぶん肩が凝ってしまった。本稿を読む人はGNU Social JPの管理人が何者かすでに知っているだろう。一口で言えばFediverse版のまとめサイトのような代物を運営している人物だ。 Read more

2023/05/28

擬制としての個人主義

先日、立てこもり殺人事件が発生した。4名の死者のうち2名は猟銃で射殺されている。めったにない凶悪犯罪だが、猟銃を所持している点から世捨て人の犯行とは考えにくい。安定した社会的身分でなければ所有の許可が下りないからだ。事実、蓋を開けてみると犯人は市議会議長の息子だという。 さて、市議会議員は国政と比べるといささか印象の薄さは否めないとはいえれっきとした政治家である。政治家の息子が巻き起こすスキャンダルには大小あれど、今回の件はこれ以上ない大事件と言える。大方の予想通り、市議会議長は議員辞職を余儀なくされることとなった。はて、おかしい話だ。我々は個人主義の発達した先進社会に生きているのではなかったか? 件の犯人は30代の成熟した大人だ。子供でもなければ成年被後見人(旧禁治産者)でもない。したがって、個人主義的な見地では市議会議長とその息子はそれぞれ独立した人間と見なされなければならない。この二者は互いに責任を負わなくていいはずだ。あるとすれば民法上の扶養義務ぐらいだ。 Read more

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