2023/01/11

論評「自由への道」:一緒に祈ってくれ

僕の知るかぎり本作はウィル・スミスが授賞式で司会者を殴って以来、初めてスクリーンの前に姿を現した作品だ。あの件への賛否はともかく、ひとまず業界追放は免れたようで安心した。僕は「バッドボーイズ」と「メン・イン・ブラック」に端を発する割と熱心なウィル・スミスファンである。あまり挙がらないが「アイ,ロボット」のスプーナー刑事役もなかなか良い味が出ていた。 「幸せのちから」で息子と共演を果たしてからというもの、なにかと自分の子供と出演したがる悪癖がついて回り一時期はだいぶ心配していたが、本作の出来栄えを見るにどうやら杞憂だったらしい。実在の脱走奴隷を演じる大役を彼は見事にこなしてみせた。暴力の代償ゆえアカデミー賞関連行事には10年間出られないが俳優としては今後もきっと安泰だろう。彼に復帰の機会を与えてくれたAppleほか関係各位に感謝したい。 Read more

2023/01/03

パソカタ諸氏へ

なぜ僕の周りではゲーム・オブ・スローンズやウエストワールドが一切話題に上らず全員アニメの話をしているのかということを一生考えてきた。情報系オタク(人生の大半をパソコンカタカタで過ごしてきた人間の、総称)は上の世代も下の世代もアニメばかり見ている。話数が多いと尻込みしてしまうのかとも思ったが、まだ1シーズンしかないイカゲームとかもまるで存在しないかのようだ。よく知られたタイトルでもこんな有様だから、その他大勢の単体映画については言うまでもない。 Read more

2022/12/22

論評「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」:映像革命再び

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」を観た。いつも映画の感想は1ツイート程度で抑えていたが、本作についてはもう少しなにか書けそうな気配があったのでブログ記事に起こすことにした。以降、分野ごとにいくつかの見出しに分けてそれぞれ論じていく。なお、本エントリはネタバレありとなる。各自注意されたし。 CG/VFX まず着目すべき点は映像の美しさである。先日、前作「アバター」を復習した際も13年の年月を疑う映像美に唸らされたが、本作にとって過去の自分を乗り越えることはあまりにも容易だったらしい。IMAXレーザーで強化された視覚音響効果も相まって、まさしくエンターテイメント作品の新しい頂点を築き上げたように思う。 Read more

2022/11/18

オープニングに神が宿る

それに度肝を抜かれたのは2010年、僕が高校2年生の頃だった。今やあらゆる作品にクレジットされているJ・J・エイブラムスが製作総指揮を務めたドラマ「FRINGE」のオープニングだ。その瞬間まで僕はオープニングというものに気を払った試しがなかった。そもそも作品によっては無かったり、タイトルコールのみで終わることもある。ああ、監督の名前とかが出るあれね、みたいな接し方をしていた。 ところがこのオープニングは違った。「FRINGE」は超科学犯罪を取り締まる特殊捜査チームの話なのだが、わずか20秒とちょっとの映像に作品の魅力がたっぷり詰め込まれている。サイコキネシス、テレポーテーション、ダークマター……情報量が多いだけじゃない。洒落っ気さえある。どうかこれが10年以上前のドラマだということを思い出していただきたい。今でも全然普通に通用すると思う。 Read more

2021/12/20

感想「マトリックス・レザレクションズ」:ほとんどメタい

歴史的興行成績を獲得しながらも視聴者の大半がストーリーを理解していないことで知られる「マトリックス」シリーズの新作が、ついに公開された。ほとんどの視聴者にとって「マトリックス」とはクールな黒装束に身を包んだキャラクターがカンフーアクションを繰り広げるエンタメ作品だ。 事実、そのような表面的な見方でも十分に楽しいからこそ本シリーズは圧倒的な知名度を得たのだし、われわれ小うるさいオタクも先駆的なSF映画を楽しむ機会に恵まれた。初動で失敗してセルビデオで盛り返した「ブレードランナー」などの例外はあれど、もし当初の企画通り、かの有名なSF小説「ニューロマンサー」の忠実な映像化に徹していたら後世の作品に今ほどの影響は及ぼせなかっただろう。 Read more

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