点と接線。

超ミニマルなZshプロンプト「typewritten」

以前、この記事 でPreztoに付属するPureというプロンプトを紹介したが、最近よりミニマルなものを発見したので共有しておきたい。typewritten は特に機能性を求めず、極めて簡素な外観を好む人に最適な選択肢だ。導入はnpmまたはマニュアルで行う。前者は動作に必要な記述を自動で行ってくれるので楽。ただし、後者の場合でもパッケージをクローンして数行の設定を.zshrcに足すだけですぐに使える。導入後、source ~/.zshrcで.zshrcを読み込み直すと本記事冒頭のgif画像のような外観に切り替わっているはずだ。

人生やり直せるからって勝ち確だと思うな

 急な話で申し訳ないけど君は人生をやり直せることになった。現在の人格と記憶を保ったまま、任意の過去の自分に時間移動できる。いわゆるタイムリープってやつだ。君がよく知るであろう言葉で表せばね。ああ、僕が誰かは気にしなくていいよ。問題はやり直したいかどうかだ。今の自分にすっかり満足しているなら断れるが……どうせ断らないだろ? 僕調べでは対象者の七十三パーセントが五分以内に合意している。誰しも人生に不満はあるものだね。さあ、まずはいつ頃の自分に戻りたいか決めるといい。ただし、新生児まで戻るのはおすすめしないな。いくら成人相当の人格が備わっていても、肉体が未発達だと不測の事態を避けられない場合があるからね。赤ちゃんの君は大人の腰の高さから落ちただけでも死にかねないぞ。それに、新生児は口蓋も咽頭もろくに機能していないから発話が難しい。食事の内容もえらく乏しい。おまけに年単位でベビーベッドから出られない。外出時はたいていベビーカーだ。要するに行動の自由が皆無で、日々の食生活は単調で、会話も運動も趣味も行えない。これって大人相手にやったら普通に全然拷問だと思う。こんな暮らしがだいたい二年は続く。その間に精神が荒廃しない自信があるか? 僕にはない。

書評「われら」:ディストピアSFの嚆矢

はじめに 巨大国家ないしは企業による執拗な管理統制、秩序が過剰に行き届いているがゆえの圧政、支配に慣れきった登場人物たちの狭量、諦観に満ちた思考様式――これらは俗にディストピアSFと呼ばれるジャンルが共通して持つ要素である。天を衝く勢いで異常発達した高層建築群や、都市機能を支える緻密な社会インフラ、高度な科学技術、それらの合間合間に点在する監視装置の存在もまた、ジャンルに馴染み深い象徴として知られている。

ノイズキャンセリング

 その洞穴は足腰まで浸かる水たまりを越えた先にあった。両脇を切り立った高い崖に囲まれ、道は狭く、反対側は鬱蒼と茂った山の森林に遮られている。ゆえに侵入経路はここ一つしかない。昨夜の雨露と思しき雫が両脇の崖を伝って落ち、できあがった水面が陽光をてらてらと反射している。ウィリアム・ソイル隊長率いる王家の守護隊〈ロイヤルガード〉は崖の手前に整列していた。黄金色の輝きを放つ板金鎧と兜に身を包んだ金髪碧眼の剣士が五名、馬車に運ばせた梯子で崖の上に登った弓兵も他に十名いる。しかし、剣士たちが洞穴にすぐ歩を進めることはなかった。まず歩を進めるのは、彼らの前に無造作に並ぶ汚い身なりをした十数名の男たちだ。実のところ、元は正確に何人だったのか守護隊長は覚えていなかった。道中で逃走を試みて処刑された者が数名、獣に襲われて重傷を負ったために捨て置かれた者が数名いて、もはや頭数の把握に意味はない。「よし、貴様ら。彼方に見える洞穴に例の怪物――セイレーンが棲んでいる。この中の誰か一人でも見事それを討ち取ってみせたなら、貴様らはみな自由の身となるであろう」ウィリアムは威厳を込めた声で高らかに宣言した。体じゅうを泥や土埃で汚し、ボロきれを着込んで防具の一つも身に着けていない男たちは、それでも目を爛々と輝かせている。万が一の成果を期待してなまくらの剣を握らせたが、剣術の心得がある者は一人としていないことを隊長は知っていた。