2025/03/27

生地探しの旅Ⅱ:クラシックかつロック

前回の続き。スーツスタイルをやっていくからにはやはりネクタイは欠かせない。当初は横着してノーネクタイ前提のコーディネートを考えていたが、いざ立派なセットアップを身に着けると物足りなさを感じたのだ。今更ながらクラシックなファッションを順当に追っていくと、なぜそこにそれが必要なのかが直感的に分かってくる。本当に需要のない装飾であれば現在まで存続していないだろう。 しかし今時はクールビズやビジネスルールの緩和化に伴い、平日の通勤時間帯でもスーツ姿にノーネクタイの人たちをよく見かける。今では誰も彼もがしている服装とはいえ、あくまでこれは「当たり前になった」のであって「カッコよくなった」わけではないところに留意する必要がある。真剣に伝統を追い求めるからには歴史の積み重ねに忠実でなければならない。 あるいは、考え方によってはむしろお堅い伝統美こそが反抗的なのかもしれない。スーツ・ネクタイを強制的に着用させられている人たちと、着なくてもよくなったので着ていない人々が大勢を占めている今日において、自らの意思でスーツ・ネクタイを完璧に着こなそうとする人は昔ほど多くはいない。年々厳しさを増す日本の気候も相まって、機能性を捨て去った昔ながらの服飾はおのずと逆張りの文脈を帯びはじめる。 Read more

2025/03/12

生地探しの旅

前回の新シリーズ。鞄と靴を一通り刷新せしめたので次はテーラードジャケットとトラウザー、すなわちスーツを手に入れる。こういう話をすると周りからは大抵怪訝な顔をされる。「せっかく背広など纏わずに済む身分なのに、ずいぶん面倒な真似をするぢゃないか」とは友人の弁。だが、僕は三十路過ぎまで生きてきて自分の性癖を十分に理解した。僕は面倒くさいのが好きなのだ。 今こうして書いている文章からしてそうだ。わざわざ面倒くさいLinuxディストリビューションを立ち上げ、面倒くさいウインドウマネージャ上で面倒くさいエディタを使って面倒くさい自作キーボードを叩いて面倒くさい言い回しでブログをしたためている。このブログ自体も面倒くさい方法で構築されている。家に帰ったらまずは革鞄と革靴をブラッシングする。月一でクリームも塗る。 であれば、服飾の関心もいずれ面倒くさそうな方向に進むのは当然の帰結であった。これまでの人生でスーツを着る機会があまりなかったために発見が遅れていただけに過ぎない。その上で、どうせ面倒くさい服を着るからにはもちろん素材も面倒くさいものを選びたい。すでに持っているポリウレタンやナイロンなどの機能性素材を避けてあえてウール100%を選ぶ。 Read more

2025/02/17

実装を義務とする

先週末、これを作っていた。mttという名前のnpmパッケージで、個人的にまとまっていると嬉しいファイル操作をコマンド化したものだ。実装はTypeScriptで行っている。 指定する引数によって機能が変わり、mtt -rで$EDITORを呼び出して行う一括リネーム機能、mtt -cでファイルおよびディレクトリを個別に圧縮する機能、mtt -iで画像ファイルを縮小する機能を備えている。npm instal -g @riq0h/mttでインストールできる。 特にエディタを用いる一括リネーム機能は以前から様々なツール(たとえばmmvは有名だ)で世話になっていたこともあり、この機会に自分の手で実装して処理を把握しておきたいモチベが強かった。今回の開発を通して最低限の勘所を掴めたと感じている。 あまり頻繁にリネームをしない人はピンと来ないかもしれないが、GUIベースで数十ものファイルの命名規則を合わせたり一貫性を持たせるのは意外に大変だ。その都度、前提条件に沿ったルールを作成したりいちいちスクリプトを書くのも面倒くさい。しかしエディタを――とりわけVimを――自由に扱えるなら話は別だ。どんなファイル群でもたちまちケリがつく。 Read more

2025/02/09

ファッション・スロットを増やす

先日、三十路を過ぎた身でピアス穴を開けた。ぶすり。いや、ぶすりという感じではなかった。バチンッという音に近かった。耳に穴を開ける道具はパンチ穴を開ける機械と構造が似ている。というより、対象が紙か皮膚かの違いだけで仕組みはほぼ同じなのではないか。ともあれ、そのようにして僕の耳たぶに穴が穿たれたのだった。 こういう経験は学生のうちに済ませておけば話が早かったのかもしれないが、その頃はそうした事柄にさほど関心を抱けなかった。むしろ、どうしてわざわざ痛い思いをしてまで着飾る必要があるのか、と訝しんでいたほどだ。しかし歳をとり相応に視野が広がってくるにつれ、遅まきながらピアッシングが装飾を拡張する実用的な手段だということに気づいたのである。 Read more

2025/01/21

ルイーズ・ブルジョワ展に行ってきた

先週末、ちょっとした思いつきから「ルイーズ・ブルジョワ展」に行ってきた。かなり刺激的な内容ながら人気を博しているらしく、前提知識を備えていなくてもそれなりに楽しめるのではないかと期待した次第だ。結論から言うと、この目論見は大いに当たった。 本展のテーマは良くも悪くも非常に明快で分かりやすかった。各所でアイコン的に押し出されている展示物が蜘蛛の大型彫像なのは知名度を重視しての判断と思われるが、母性の持つ二面性を暴き出すという真意を伝えるにはかえって抽象的すぎたきらいも否めない。デート向きのおしゃれな美術展だと早合点して行ったカップルなどは少々気まずい思いをしただろう。 Read more

©2011 辻谷陸王 | Fediverse | Keyoxide | RSS | 小説