あらすじ 本作はナチス政権下で行われた「ヴァンゼー会議」をもとにした作品である。ベルリン郊外のヴァンゼー湖畔にちなんで名づけられたこの会議では、親衛隊の将校ならびに事務次官などナチスドイツの中枢を支える高官たちが一堂に会している。戦争のさなか多忙を極める彼らが今回招集された理由は、かねてよりヒトラー総統が掲げる「ユダヤ人問題」の「最終的解決」を討議するためだった。風光明媚な景観を湛える邸宅の中、ランチタイムを挟んだ90分の議論でユダヤ民族の絶滅計画が作り上げられたのだ。
僕の新しい職場は田町にある。三田、港区と言い換えた方が通りがいいかもしれない。週の半分ほどここに通勤するたび、いかにも毛並みの良さそうな慶應義塾の学生や東京工業大学附属科学技術高等学校(権威はしばしば名前の長さや画数に宿る)らしき生徒たちの群れとすれ違う。その時、薄暗い身分に生まれ落ちた自分が迫りくる才気の波に削り落とされ、人混みをくぐり抜けた後には骸と化しているのではないかと恐怖に駆られる。洗車機は巨大なブラシで車をピカピカに磨いてくれるが、自分が汚穢そのものだとしたら残るは無垢な白骨ばかりと相成る。
転職して約一ヶ月。予想に反してiOSアプリ開発案件にアサインされたため業務時間中は常にMacを使っている。皆さんもよくご存知の通り、iOSアプリの開発にはMacが必須だからだ。リモートワークでは貸与されたMacを使うし、実機検証用のiPhoneも傍らに置いてある。半分Appleアンチで知られる僕も今やすっかり林檎林檎している。じきに取り囲まれて林檎シロップ漬けと化すことだろう。さて、しかし業務時間が終わればもはやこっちのものである。退勤報告をぶち上げた直後に即ディスプレイの入力を切り替えればそこは僕の庭だ。Macの方でもなんとかタイル型WMの挙動を再現できないかとyabai を入れてみたり、なるべくCommandキーを使わないショートカット体系を目指してみたりと試行錯誤しているものの、どうしたって自分の手に馴染んだ環境は他と代えがたい。
土曜日 5月27日。コミティアの前日、例によって表参道付近をうろついていたところ――今回は冷やかしではなくちゃんと革鞄を買った――なお出来上がりは7月中旬の予定――合同誌の特装版作りを行うための頭数が足りないと聞きつけ、急きょ東京大学駒場キャンパスへと足を運んだ。指示に従って現場に向かった僕は、気がつくとマジで謎の空間に立っていた。「槌音広場」とやや物騒な名前が付けられたこの場所、なんとグーグルマップで表示される。見た感じ学生たちが木工の作業場として利用する敷設のようだ。特定の道具に所有権が宣言されていたり、スプレー缶を使っていい位置に指定があったりなど、なにやら規則めいたものも存在する。しかし誰の手によって運営されているかは不明だ。