2025/11/25

本売りの精度

今年の秋冬も同人誌の頒布を行った。当サークルGradierwerkの定期刊行合同誌『多島海』の記念すべき創刊号である。今回は都市SFをテーマとした。頒布は東京大学の学園祭「駒場祭」内の同人誌即売会「コミックアカデミー」一日目と三日目、およびコミティアで行われた。 このうちコミックアカデミー(以下、コミアカ)の一日目は当サークルの首魁endenが出向いたが、コミアカの三日目とコミティアが同日開催となってしまった都合上、前者については僕が単独で売り子を務めた。ただしコミアカでの頒布需要は一日目で概ね満たされたと見て、三日目のコミアカには一〇冊前後を割り当て、残りはすべてコミティアに任せる格好となった。 つまり、今回の本売りはいたずらに客を呼び止めてセールスすればよいというものではない。コミアカの客層は他の同人誌即売会と比べてやや特殊だ。中高生の子どもたちに頒価二五〇〇円を拠出せしめる経済力はなく、親子連れの財布の紐は固い。カップル客は大抵どちらかが微妙に退屈している。 Read more

2025/11/12

『天下一キーボードわいわい会』に行ってきた

先週末、友人に誘われて日本最大級の自作キーボードのイベント『天下一キーボードわいわい会』に参加した。世界各地から持ち寄られた異常キーボードが六本木の中心で咲き乱れるこの祭典は、今回で開催9回目を迎える。300名をゆうに超える定員が一瞬で埋まったことからも参加者たちの熱量が伝わってくる。 僕はというと、今回が初参加となる。元々キーボードにはそこそここだわりがある方だったが、自作キーボードに手を出したのは約2年前でまだ日が浅く、組んだのもごく一般的な65%キーボードである。キー数が異様に少なかったり、左右上下に割れていたりといった、いかにも耳目を集めそうな見た目をしていない。そんなわけで今回は手ぶらでの参加を選んだ。 Read more

2025/10/30

ネクタイが政党カラーと被る

季節の変わり目はネクタイ選びが捗る。紳士の正装においてネクタイは装飾が許される数少ない領域であり、ネイビーやグレーで堅牢に構築された基礎に華を添える重要な役割を担っている。秋冬はジャケットの色の深みに合わせてネクタイの色合いも落ち着かせる傾向にあるが、それでも模様や柄の幅広さを考えれば十分な選択肢が用意されていると言える。 さて、そんなネクタイの豊富な種類のうち、特に代表的な模様としてレジメンタル(ストライプ)が挙げられる。二色または複数の色で斜線を引いたデザインを持つあの柄だ。一般的には細い線と太い線を組み合わせて三色ほど使っているものが多い。使う色が多いと主張が強くなりそうなのは誰しも概ね想像がつきそうだが、実は色が少なくても同様の印象を抱かれる場合がある。 Read more

2025/10/22

本作り2025秋冬

来月下旬にコミックアカデミーおよびコミティアで合同誌を頒布する。当サークルGradierwerkでは初めての試みとなる定期刊行物の発行だ。毎年最低二回の発行を目標にしている。今回のテーマは『都市SF』に決まった。 よく知られているように、都市SFは順当に書くと概ね「企業・格差・不動産」のいずれかのテーマに回収されていく。つまり非常に物語が被りやすい。ということで今回、僕はあえて悪ふざけに徹してラーメンの話を書いた。すべてが自動化された理想郷的な都市でラーメンを食べる子を描いたほんわかストーリーである。ぜひ楽しみにしていただきたい。 さて先週、僕はその定期刊行物の表紙を作るべく、さいたま市から射出されて東京へと降着していた。特殊装丁を施すのは当サークルのアイデンティティゆえ、定期刊行物とはいえなんらかの工作をしないわけにはいかないらしい。幸い、原稿を書く役割を担っているメンバーのうち、僕だけ一足先に校了を済ませていたので身が軽かった。こうして軛から解き放たれし全裸中年男性が山を下り、野を駆け、学生たちの集まりに押しかけてきたのだ。 Read more

2025/10/09

変な柄のローゲージニットを求めて

長らく関東に住んでいても、暖かい服を手元に置いておくと安心するのは北国生まれの習性かもしれない。我が故郷の岩手県盛岡市ではぼちぼち最低気温が10度を下回る。来月の今頃は氷点下近辺まで下がっているだろう。残暑で弛んだ空気が突然手のひらを返したように鋭く尖り、街行く人々をいきおい突き刺しはじめる。そんな辛く厳しい寒風から身を守りし聖衣が、他ならぬニットである。 これはただのニットではない。都会の人間がスタイリッシュに着る薄手のものとは異なる、極太の毛でもったりと編まれたローゲージニットだ。目ざとい人ならニットにゲージ数という単位が設けられていて、20Gとか12Gとか、7Gといった数字が振られているのを知っている。高ければ高いほど目が細かく薄い。10G以上は概ねハイゲージで、それ以下がミドルゲージとされる。ローゲージと呼べるのは4G以下だ。しかし関東の気候で7G以下のニットが必要とされる局面はほとんどない。 Read more

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