2024/07/10

星新一をくれたお巡りさん

2003年のある夏の日。僕はいつものように本を読みながら下校していた。人も建物もまばらな田舎町の通学路は足が覚えている通りに歩き続けるだけで家に着く。時折、足の裏に意識の一欠片を分け与えると、じきに靴底が土くれを踏んでいる感触を伝えてだいたいどの辺りを歩いているかが分かる。道中に道路が未舗装の区間があるため、そこまで来れば半分は歩いたことになる。 たとえ東北の寒村であっても夏は蒸し暑い。6時間授業を Read more

2024/07/01

革探しの旅Ⅱ:必要にして十分な携行品

前回の精神的続編。革鞄は買わないと言っていたが、あれは嘘だ。幾度となく原宿の工房に通って選び抜いた一品が先週末、約2ヶ月の歳月を経てついに完成と相成った。この鞄には使う前にして僕のライフスタイルが詰まっている。なぜなら来る日も来る日も、工房のありとあらゆる鞄に携行品を出し入れして検討を重ねてきたからだ。そこには永久の課題が存在する。”僕は一体なにを持ち運べば事足りるのか?” 人によってはこの問いは愚 Read more

2024/06/27

論評「哭悲」:二段構えの地獄

先週の土日はまことにファックネス(ファックの抽象名詞)であった。オフィスで蔓延していた喉風邪の煽りを受けて療養を余儀なくされていたのだ。子どもの頃は居間に布団を敷いてもらって普段は観られない平日のテレビ番組や映画などを楽しんだものだが、なぜか今はそううまくいかない。話がてんで頭に入ってこないのである。 あるいは、もしかすると在りし日の少年陸王は話の内容を捨象して映像の動きだけを追っていたのかもしれな Read more

2024/06/18

論評「ヒトラーのための虐殺会議」:流血なき血なまぐささ

あらすじ 本作はナチス政権下で行われた「ヴァンゼー会議」をもとにした作品である。ベルリン郊外のヴァンゼー湖畔にちなんで名づけられたこの会議では、親衛隊の将校ならびに事務次官などナチスドイツの中枢を支える高官たちが一堂に会している。 戦争のさなか多忙を極める彼らが今回招集された理由は、かねてよりヒトラー総統が掲げる「ユダヤ人問題」の「最終的解決」を討議するためだった。風光明媚な景観を湛える邸宅の中、ラン Read more

2024/06/13

「しかし……」と末尾に付け加える

僕の新しい職場は田町にある。三田、港区と言い換えた方が通りがいいかもしれない。週の半分ほどここに通勤するたび、いかにも毛並みの良さそうな慶應義塾の学生や東京工業大学附属科学技術高等学校(権威はしばしば名前の長さや画数に宿る)らしき生徒たちの群れとすれ違う。 その時、薄暗い身分に生まれ落ちた自分が迫りくる才気の波に削り落とされ、人混みをくぐり抜けた後には骸と化しているのではないかと恐怖に駆られる。洗車 Read more

2024/06/02

LinuxでNeovimでもSwiftを書きたい!

転職して約一ヶ月。予想に反してiOSアプリ開発案件にアサインされたため業務時間中は常にMacを使っている。皆さんもよくご存知の通り、iOSアプリの開発にはMacが必須だからだ。リモートワークでは貸与されたMacを使うし、実機検証用のiPhoneも傍らに置いてある。半分Appleアンチで知られる僕も今やすっかり林檎林檎している。じきに取り囲まれて林檎シロップ漬けと化すことだろう。 さて、しかし業務時間 Read more

2024/05/28

本売りまくりⅡ

土曜日 5月27日。コミティアの前日、例によって表参道付近をうろついていたところ――今回は冷やかしではなくちゃんと革鞄を買った――なお出来上がりは7月中旬の予定――合同誌の特装版作りを行うための頭数が足りないと聞きつけ、急きょ東京大学駒場キャンパスへと足を運んだ。指示に従って現場に向かった僕は、気がつくとマジで謎の空間に立っていた。 「槌音広場」とやや物騒な名前が付けられたこの場所、なんとグーグルマッ Read more

2024/05/20

本売りまくり

5月18日の昼下がり。性懲りもなく革小物探しで表参道辺りを徘徊していたところ、今日は自分が寄稿した合同誌が頒布される日だったことに気がついた。そう、かねてより宣伝を繰り返していた戦略級魔法少女合同である。頒布会場はここからなら大して遠くはない。さっそく都営地下鉄に飛び乗り、東京大学本郷キャンパスへと向かった。 この日、東京大学では五月祭なるデカ学園祭が催されていた。同人誌即売会のコミックアカデミーは Read more

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