2024/09/11

ターミネーターシリーズの思い出を語る

現在、Netflixで「ターミネーター0」が公開されている。なんとあのターミネーターシリーズの最新作がアニメでやっているのだ。こういう企画が通るのも色々な意味で時代の流れだと感じる。アニメファンが世界中に増えたのも理由の一つには違いないが、より大きいのは本作の不可侵性がもはや失われたことだろう。 ターミネーターシリーズは誰もが知る超有名な映画であると同時に、幾度となく公式で解釈の変更が繰り返された作品でもある。たとえばターミネーター3は2の続編だが、実は主人公の年齢すら食い違っている。さらに言うと、4は3の続編、ドラマ版は2の続編、ジェニシスは1のやり直し、ニュー・フェイトは2の続編のやり直しだ。 Read more

2024/09/02

道徳ⅢC

地球人口の大半が失われた未曾有の戦禍の後、揺るぎない道徳心を拠り所とする新たな思想体系が芽生えた。やがてこの思想――道徳主義は極めて重要な学際的使命を担うに至る。ここでは道徳主義を標榜する国々を道徳主義国家、懐疑的な体制を持つ国々を非道徳主義国家と呼称する。 前者の代表的な一員である我が国は道徳教育を特に徹底している国家として知られている。道徳科は義務教育の初年度からさっそく「はじめてのどうとく」の名称で登場し、簡素な物語を交えながら道徳精神の醸成を図る。その後、教育課程の進行に合わせて物語の内容は次第に複雑化していくが、困難な状況下でも確固たる道徳心をもって回答を導きだせるか教員の目を通して随時評価される。 Read more

2024/08/26

革探しの旅Ⅲ:ジッパーの逆襲

前回の精神的続編。たぶん旧作ファンに怒られる方の。一度決めたコンセプトを覆すのは辛いものだ。ある日、通勤用に愛用していた布鞄が裂けた。ラップトップが入り、他の携行品もぴったり収まる上に可愛い、すばらしい鞄だったのにここへきて弱点が露呈してしまった。誓って言うが直接なにかを当てたり擦ったりはしていない。上の画像は内側の左端だが右端もほぼ同様の有様だ。 もちろん補修はできる。せっかくなら裁ち革を用いた修繕を試そうと思い、すでに革素材を発注している。だが、どんな素材を用いようとも状況からみて応力が端に集中している以上、通勤用途にはもはや耐えられそうにない。今後は予備や雨天時など他の身の置きどころを考えてやる必要がある。 となると新たに鞄を発注しなければならず、材質はおのずと革製が選択される。長期的な耐久性において革を凌ぐ材質はそうない。コストパフォーマンスではナイロンが有利だが、加水分解という時の宿命からは逃れられない。製品サイクルの早さゆえデザイントレンドの影響も受けやすい。一方、革製品はそれ自体がトラディショナルな性質を持つ。きっと月面旅行でも使われるだろう。 Read more

2024/08/18

すごいぞシミュレーションゴルフ

シミュレーションゴルフを契約して半月ほど経った。かつて会社帰りにバッグを背負って自転車を漕ぎ、わざわざ練習場に行っていた面倒を思えば最寄り駅を降りて即座に球が打てるのは凄まじい文明開化ぶりである。それでも僕がこれまで現実の世界にこだわっていたのは、やはりリアルに飛んでいく球しか信用ならず打った気にならないという固定観念ゆえだった。 しかし現実世界はタイパもコスパも悪い。自転車で往復するだけでも何十分もロスしているし、月極で打ち放題の形態をとるシミュレーションゴルフと比べて練習場は行けば行くほど金がかかる。なにより「リアルに飛んでいく球」といっても、所詮は敷地面積次第だ。近場の練習場は150ヤードが限界なのでロングアイアン以上で打つとどのみちほとんど区別が付かない。 Read more

2024/08/14

本売りまくりⅢ

前回の続き。8月12日、コミケ当日。ほぼ始発の電車でサークル主催者、東大生君ことenden――僕はいきなり登場人物の名前を出さず段階を踏むやり方が好きだ――の家に向かったところ、寝耳に水の新事実を知らされた。様々な事情により特装版の仕上げがまだ完成していなかったのである。彼は徹夜で作業を続けていたものの無慈悲にも太陽はみるみるうちに昇り、サークル参加者の入場時刻は刻一刻と近づいている。 オタク学生に特有の本棚とガジェット類と謎のオブジェで満ちたワンルームで、僕も自分ができそうな作業を手伝ったが今さら大して能率は上がらない。気がつけば時刻は7時半を過ぎ、8時に迫りつつあった。本来、サークル参加者は9時半前に受付を済ませなければならず、ここから国際展示場駅まで1時間以上かかることを踏まえると今すぐに出なければ間に合わない。 そこで、我々は究極の決断を余儀なくされた。「特装版は作りながら売るしかない」 急ぎ、未完成のモルタルの塊と作業道具、そして通常版の本を台車に積み上げ、切らしたガムテープを買う時間も惜しんで封もせぬまま係留――今になって考えるとマジでありえない限界すぎる行動で駅に跛行した。 Read more

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