2022/09/04

黒人エルフと雇用均等

Amazon Prime Videoにて歴史的ファンタジー大作「ロード・オブ・ザ・リング」の最新シリーズ「力の指輪」が絶賛公開中だ。僕はJ・R・R・トールキンの原作小説は中途半端で映画化作品しかまともに観ていないが、2話目の段階でかなり期待の持てる出来だと感じた。 その「力の指輪」についてだが、浅黒い色の肌をした俳優がエルフを演じていることで物議をかもしている。この俳優はプエルトリコ出身なので本当は黒人ではないものの、人種がなんであれトールキンの原作小説に肌の黒いエルフは登場していないらしい。 つまりこれはポリコレを笠に着た作品の改竄――偉大なるファンタジー文学の始祖、J・R・R・トールキンに対する冒涜ではないか――エルフは純白の美しい白人の俳優が演じるべきだ――件の議論で「黒人エルフ」に反発している人たちの意見は、おおよそこんな具合だ。 Read more

2022/08/25

不眠との戦い:シーズン4

オンラインゲームが原因で不眠をこじらせたのは大きく区分すればこれで四度目だ。一度目は中学生の頃、二度目は大学受験中、三度目は五年くらい前だった。運動習慣と良質な食生活を確立してなお眠れなくなるのだからオンラインゲームというやつはまことに恐ろしい。 おそらく、単に就寝時間が遅くなること以上に交感なんとか神経みたいなのがいたずらに刺激されすぎて、一種の興奮状態に陥っているのだと思われる。結果、今日こそは早く床に就くと決意を固め、事実それを成し遂げたとしても、翌朝現れるのは褥にかじりついたまま陽光を恨む無力な自分である。「明けない夜はない」と言うが、僕が眠るまでは明けないでほしい。 Read more

2022/08/10

叱責されるとあくびが出る

この悪癖は僕の人生にけっこうな厄介をもたらしてきた。表題通り、叱責されるとあくびが出る。誓って言うが、別に相手をなめてかかってはいない。等身大の自省は備わっているつもりだし、反抗を態度で示すつもりもない。にも拘らず、どういうわけか叱られるとあくびが出る。 恐るべきことにこの悪癖はどんなに努力してもなかなか止められない。気がついたらおのずとあくびの体勢をとっている。奇跡的に寸前で留めたところで、既に口は開いている。相手からしたら呼吸していようがしていまいが格好としてはあくびそのものだ。こいつ、生意気にもあくびなんぞかいていやがる。ふざけやがって。こんな具合に余計な怒りを買った経験はもちろん一度や二度では済まない。 Read more

2022/07/24

表現の自由の競争的側面

前提として、われわれがいま認識している「表現の自由」とは実質的に市場原理に基づくものであり、率直に言えば能力主義の産物である。 もし「表現の自由」が単に束縛を受けずに喋ったり書いたりできれば満たされうるのであれば、たいていの専制国家はそれを実現することが可能だ。誰もいない空室とか、閉じられたネットワーク環境でのみ表現を認めればよい。今風に表すと「壁打ち」だけ許せば事足りるということになる。 もちろん自由主義国家に住まうわれわれが認識する「表現の自由」はそんな程度の代物ではない。街中で、出版で、オープンなインターネットで、時には嫌がるであろう人の鼻先にさえ、それを突きつける機会までが約束された権利だと確信している。空間を共有する誰か一人でも苦言を呈したら即座に撤去などとなればほとんどの表現は公開できないからだ。「見せる権利」は「見ない権利」を明らかに上回っている。 Read more

2022/07/14

竹下通りのダブルバイオーム

原宿の竹下通りには神社がある。竹下通りからどこかに向かって歩いて徒歩十数分、とかではない。まさに街の中心に神社が存在する。 JR原宿駅の竹下口から降りると、すぐ目の前がかの有名な竹下通りである。Kawaiiと雑に総称される文化がそこかしこに輝き、通りの両面にはクレープ屋、キャンディ屋、割と新顔の韓国フードを扱う店などが立ち並ぶ。いつ行っても通りは人間という人間であふれかえり、牛歩のごとき歩みでしか先に進めない。人々の発する嬌声が街の活気を象っている。 Read more

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