2023/10/29

自動車環境改善Ⅰ

見ての通り、変速機のシフトケーブルが破断した。元々が中古の貰い物ゆえこのような事態に陥ることは早晩目に見えていた。さっそく修理に取り掛かる。当初は変速機ごと取り替える予定でいたが、装着の都合上グリップも変えなければいけない手間から今回は見送った。 修理にはワイヤーカッターなる工具を使う。聞けば、ニッパーでは潰れがちな切断面を美しく仕上げてくれるすごいやつだという。まだ使いもしないうちから意味もなく部屋で開け締めをして謎の充実感を味わう。この感覚は新しい工具でしか得られない独特なものだ。同時に届いた交換用のアウターケーブルとインナーケーブルを外に持って行く。 変速機から伸びているケーブルにはアウターとインナーがあり、車体からはみ出る箇所がアウターケーブルによって防護される形になっている。特に変速機から車体に向かって垂れ下がる部分はハンドルの切り返しで頻繁に湾曲するため、こういった措置を施さなければすぐに摩耗してしまうらしい。恥ずかしながら僕は元からそういう一体型のケーブルなのかと思っていた。 Read more

2023/10/22

思い入れが深すぎる音楽

選りすぐりのお気に入りばかりを集めた一軍プレイリストに入っているのに、なぜか聴く機会が少ない曲がある。思い入れが深すぎて逆に簡単には聴けないのだ。僕にとっては、TRFがそうだ。僕が生まれた年にデビューを果たして、浮き沈みを繰り返しつつも今日に至るまで現存している。まさにJ-POP界の生ける伝説と言っても過言ではない。 TRFと出会ったのは6歳か、7歳か、それくらいの頃だったと思う。当時、観ていた映画か、テレビ番組か、なにに影響を受けたのか定かではないが、僕は唐突に「音楽を聴く機械が欲しい!」とママにねだった。対するママは一桁年齢の子どもに新品のオーディオ製品を買い与えることを躊躇した。そこで手渡されたのが、初代ウォークマン「TPS-L2」だった。昔からちまちまと使い続けていたというそれは、前世紀末の時点ですでにぼろぼろに薄汚れていた。 Read more

2023/09/24

クロスバイクを手に入れた

2010年の秋、僕は有頂天になっていた。ついに念願のクロスバイクが手に入ったのだ。ママチャリと比べて驚くほど軽く、余分な付属品が付いていない潔いフォルムに僕はいたく感銘を覚えた。ここから自分の裁量でなにを装備してもいいし、しなくたっていい。さしあたり僕が真っ先に取り付けたのはキックスタンドではなくスマホスタンドだった。 先立って入手していた最新のiPhone4を日がな一日中いじっていて感じたのは、このスムーズなGPSとグーグルマップの追従性を活かせばどんな場所にも迷わずに辿り着けるという確信である。たとえ土地勘がない遠方でも、あらゆる街路情報が高速3G回線の息吹に乗って手元までやってくるのだ。遠くに行く足さえあれば――そこで、高性能の自転車を買う運びと相成った。下の名前が「陸王」なくせにオートバイじゃないのかよと人々に10回くらいは突っ込まれた。 Read more

2023/08/14

病気の時にする妄想

かのジェームズ・キャメロン監督は殺人ロボットに追われる悪夢を見て「ターミネーター」を思いついたと言う。巨匠は熱にうなされていても元を取る。すごい。だが、残念ながら僕みたいな凡夫はそうじゃない。普通に意味不明な妄想に眠りを妨げられるだけだ。先週の日曜日夜から木曜日にかけて、僕は病に伏していた。 心当たりはある。Web小説を書く際の自主目標のために睡眠時間を削りすぎた。一週間にわたって5時間も眠らずやりくりしていたせいか現にほんのり具合が悪かったし、日曜日の朝には初期症状っぽいのも表れていた。目標の期日は達成したが代わりに誤字脱字の報告が複数寄せられたので、やはりベストパフォーマンスでは推敲できていなかったと見える。 Read more

2023/07/31

あらゆる状況が僕にコーヒー豆を煎れと告げていた

中年男性がハマりがちな趣味というものがいくつか存在する。蕎麦、チャーハン、パスタ、カレー……そしてコーヒー。多分に漏れず、僕も30歳に相成る過程でそれらすべてにしっかりハマってきた。だが、コーヒーだけは最後の一線に踏みとどまってこらえていた。なぜなら、生豆とさして変わらない価格で最高の焙煎を行う店があったからである。 横砂園と名乗るその店は、コモディティの手頃な品種からスペシャルティの高級銘柄まで幅広く網羅していながら焙煎度合いも選べて、注文した当日中に発送もしてのける圧巻のホスピタリティとコストパフォーマンスを兼ね備えていた。今思えばありえない話だ。通常、どんなサービスや商品であっても速い、安い、良いのうち同時に二つしか満たせない。 すなわち、安くて良いものは遅く、速くて良いものは高い。さもなければ誰かにしわ寄せがいく。「よほどコーヒーが好きなんだなあ」などと能天気でいた僕ときたら、まったく救いようがない。実際には、店主ひとりの過酷な労働によって辛うじて成り立っていた商いだったのだ。 Read more

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