2021/06/10
書評「人間たちの話」:にじみでる諦観の念
どんなに完璧な生活リズムで暮らしていても、やはり寝付きが悪い日というのはあるものだ。寝床に入って十分、二十分……まだ眠れない。そんな時には、諦めて本を手にとる。眠れない日の読書はどういうわけか活字がよく頭に入ってくる。夜半に間食を貪るがごとく、僕は文章を頬張った。
そうは言っても膨らむのは頬ではなく瞳孔で、咀嚼音の代わりに目がぱちぱちと閉じて開く。そういう形態の営みを三時間も続けた頃、物語はあらかた食べ尽くされた。その時分には、僕の目もようやく咀嚼を止める気になって休息に落ち着いたのだった。特にオチはない。
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