2023/03/18

アンチフェミは結局どうなりたいんだ

名前を出すのも億劫なあの人とかあの人とかが台頭してきた時、ああ、マスキュリズムの一派なんだなと僕は能天気に捉えていた。確かに男というだけで苦役が課されるのは理不尽だし、男性差別のみならず女性差別的ですらある。「男なんだからやれよ」は裏を返せば「女にはどうせできないでしょ」だ。そんな過去を反省してか、いくつかの国では男女ともに徴兵を課すようになった。本当は徴兵制自体をなくしてほしいが情勢的にはそうもいかないのだろう。 さらに踏み込んだ話をすると、男女の均等雇用が訴えられるのはもっぱらデスクワークに限られていて、土木業や建設業、運送業などの過酷な現場仕事で同様の主張が為される例はめったにない。男女平等とはこれいかに。このように、マスキュリズムの言い分には一定頷ける余地がある。もちろんそこには過労を前提とした搾取が横行しており、頑健な肉体を持つ一部の男性でなければ適応できない現状が否めないにせよ、華やかで高給な仕事ばかり望んでいるとの誹りは免れられない。 Read more

2023/03/05

分散できないのはどう考えても僕たちが悪い

2016年にMastodonってのが出た。なんでも自由にサーバを建てられるから巨大資本に言論統制されないらしい。ちょうど真新しさに飢えていた人々はさっそくこれに群がった。かくいう僕もその一人だ。学生が建てたサーバがパンクして企業が支援を申し出たり、政治家がお忍びでアカウントを作ったりなんかして、しばらくお祭り騒ぎになった。 しかし分散型SNSが負の側面を露呈せしめるのは割と早かった。自由にサーバを建てられると言っても結局、ほとんどのユーザは人がたくさんいる場所、安定していそうな場所に行きたがる。やがてインフラコストに耐えられなくなった運営者は次々とサーバを手放し、安住の地から放逐されたユーザたちはそそくさと古巣に戻っていった。第一次Mastodonブームの終焉である。以降、Twitterがなにかやらかすたびに分散型SNSは潮の満ち引きを繰り返してきた。 Read more

2022/09/10

レスバ欲に抗う

赤の他人に議論を持ちかけてまともに成立することはまずありえない。理想形の議論を完遂させるには相手との信頼関係が必要不可欠だからだ。あけすけな言い方をすれば、友好を損ねたくない後ろめたさこそが議論を成り立たせていると言える。むろん、赤の他人相手にそんな余地は存在しない。 ましてや議論をふっかけてくる赤の他人はただの赤の他人でさえない。初っ端から意見が対立している。つまり敵だ。エネミーだ。好感度はゼロじゃない。マイナスからのスタートだ。そんな相手と取っ組み合ってなにかが得られると勘違いしてしまったのがインターネットの罪悪であり、レスバ戦士どもの夢の跡というわけだ。 Read more

2022/09/04

黒人エルフと雇用均等

Amazon Prime Videoにて歴史的ファンタジー大作「ロード・オブ・ザ・リング」の最新シリーズ「力の指輪」が絶賛公開中だ。僕はJ・R・R・トールキンの原作小説は中途半端で映画化作品しかまともに観ていないが、2話目の段階でかなり期待の持てる出来だと感じた。 その「力の指輪」についてだが、浅黒い色の肌をした俳優がエルフを演じていることで物議をかもしている。この俳優はプエルトリコ出身なので本当は黒人ではないものの、人種がなんであれトールキンの原作小説に肌の黒いエルフは登場していないらしい。 つまりこれはポリコレを笠に着た作品の改竄――偉大なるファンタジー文学の始祖、J・R・R・トールキンに対する冒涜ではないか――エルフは純白の美しい白人の俳優が演じるべきだ――件の議論で「黒人エルフ」に反発している人たちの意見は、おおよそこんな具合だ。 Read more

2022/07/24

表現の自由の競争的側面

前提として、われわれがいま認識している「表現の自由」とは実質的に市場原理に基づくものであり、率直に言えば能力主義の産物である。 もし「表現の自由」が単に束縛を受けずに喋ったり書いたりできれば満たされうるのであれば、たいていの専制国家はそれを実現することが可能だ。誰もいない空室とか、閉じられたネットワーク環境でのみ表現を認めればよい。今風に表すと「壁打ち」だけ許せば事足りるということになる。 もちろん自由主義国家に住まうわれわれが認識する「表現の自由」はそんな程度の代物ではない。街中で、出版で、オープンなインターネットで、時には嫌がるであろう人の鼻先にさえ、それを突きつける機会までが約束された権利だと確信している。空間を共有する誰か一人でも苦言を呈したら即座に撤去などとなればほとんどの表現は公開できないからだ。「見せる権利」は「見ない権利」を明らかに上回っている。 Read more

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