2023/12/31

地面と対話するためのインターフェイス

ランニングを始めた頃、僕が最初に買ったシューズはアシックスのJOLT2だった。見た目は少々無骨だが頑丈で、文字通り駆け出しのランナーを保護するための機構が盛り込まれたプロダクトだ。その上、非常に安い。Amazonだと4000円台で手に入る。僕は今でもランニングを始める人には自信を持ってJOLTを勧める。現行のJOLT4はきっとさらに改良が進んでいるのだろう。 履いた時の感触はいかにもがっちりしている。踏み込むと、やや固い。地面の固さが伝わっているのではない。ソールが一枚岩を象って地面の凹凸を吸収している。それゆえ走り方や路面状況に脚部が侵される心配はほとんどない。なにかと故障の絶えない初期のランニングにおいて極めて重要な要素を満たしている。 しかし、走り出して数ヶ月も経つと他の選択肢が欲しくなってくる。念に念を入れて厚着した服をだんだんと脱ぎたくなるように、一度解放されてみたいという気持ちが強まってきたのだ。順調に習慣化が進んだセルフご褒美の側面もある。そこで、次に選んだのがアディダスのPureboostとAdizero RCだ。 Read more

2023/12/24

キーボードのことだけ考えて眠る

今年もやって参りました。本稿は一般社団法人異常文章排出機構のアドベントカレンダー2023、24日目の記事です。 物書きはキーボードにこだわる。文章を打つからだ。プログラマはキーボードにこだわる。コードを打つからだ。ゲーマもやはりキーボードにこだわる。敵を打つからだ。それらすべてに当てはまる僕も、もちろんキーボードにはそこそここだわっている。 その昔、そう多いとは言えない稼ぎを元手にえいやと買ったLeopold FC660Cをずっと愛用してきて、僕はこれぞ最高のキーボードだと確信していた。すなわち、矢印キーが付いた静電容量無接点方式のキーボードこそが業務によし、ゲームによしで攻守最強に違いない、との理屈である。 Read more

2023/12/17

巨大質量に引きずられて

*Fediverseは静かな星系である。Xという名の、自分自身をも燃やしながら光より速く自転している惑星の騒々しさと比べたら、ここいらの星々はまるで止まっているように見える。長い時間をかけてようやく最初の公転を終える惑星もあれば、自転すらままならず雲散霧消してしまう惑星もそう珍しくはない。 なにしろ中心がないものだからそもそも公転の定義からして怪しい。我々は一体なにを頼りに回っているのか、どこへ行こうとしているのかさえ定かではない。かといって別に迷っているわけでもなく、むしろ確固たる意志で漂っている。時折訪れる旅行者はこの辺境特有の奇妙な生態に関心を寄せてくれるが、特になにもないと判ると足早に去っていく。ここには離脱を妨げる高重力もない。 そんなFediverseもたまに惑星同士がうまい具合に隣接する時がある。その瞬間、いつか届けば儲けものと放っておいた電波が結びつき、一時の交流を楽しむことができる。さらに調子が良ければ三連星や四連星を構成する場合もありえるだろう。だが、互いに気まぐれな軌道を描いているゆえ、いつまでも引かれ合っているとは限らない。 ある日。そこへ、巨大質量を備えた惑星が超速度を伴って星系に飛び込んできた。Threadsだ。そのあまりの重力の強さに周囲の惑星は軒並み引きずられ、あたかもビー玉のごとく傾斜のついた宇宙のフローリングを転がっていく。にわかに加速度をもたらされた彼らは次々とThreadsの後を追いかける。 そうして重力圏に捉えられたいくつかの惑星たちは、いつしかThreadsを中心に周回しはじめる。気の向くままだった軌道は強大な引力に律されて、厳密な公転周期を与えられた。おのずと、それらの惑星たちは常に隣接しあい、連星を前提とした大文化圏が誕生する。とりとめのない漂流の道すがらに出くわした他の惑星も、ひとたび彼らの重力に引かれれば二度と自分の軌道には戻ってこられない。 数年後、この辺りはすっかり賑やかになった。今や数億人の住民が共に暮らす大都会星系と化したここには旅行者がひっきりなしに訪れる。インフルエンサーもいるし、報道機関も、大企業も、自治体の出張所もある。幾千の惑星で器用にフラフープをしながらThreadsが言う。「ようこそFediverseへ!」* Read more

2023/12/10

デスク環境改善Ⅰ

初めて家電屋で触ったいつか以来、僕の手のひらはずっと「これだ」と言い続けていた。だが、僕の視床下部あたりに居座っているやつがすかさず「でもお前ゲームするじゃん」と横槍を入れてくる。それを聞いた大脳が「確かに……ゲームするたびに入れ替えるのも面倒だし……結局マウスばかり使っちゃうだろうし……」と判断を保留する。幾度となく繰り返されたやり取りだ。 しかし時は流れる。三年が経ち、五年も経つともはや僕はゲームをしなくなっていた。視床下部にいるやつはだいぶ前から眠りこけている。無理もない。FPSゲームとかだけに使う神経って、なんとなくありそうだよな。となると、大脳が手のひらの言い分を聞き入れるのは自然な道理だった。師走にしては生暖かったある日、僕はヨドバシAkibaのトラックボールブースに居座り、脇目も振らず樹脂製の球体を愛でていた。 Read more

2023/12/03

NeovimをさらにLuaLuaさせた

あれから一年近い月日が経った。ひとたび完結を見た僕のinit.luaはその後も進化し続け、ずいぶんIDE的な出で立ちに変貌を遂げた。当初のサブ武器としての位置付けはどこへやら、今ではすっかり長剣の顔をして鞘に収まっている。電脳空間を切り開くデジタルロードアウトはえてして可変長であり、所有者の意向次第で自在に特性を変えられるのだ。本稿では新たに増えたプラグイン群を紹介する。 jaq-nvim いわゆるタスクランナー。書いたコードを即時に実行してくれる。国内では応用の幅広さからvim-quickrunがとりわけ有名だが、元がVim用のプラグインなのでNeovim特有のUIに対応していない惜しさがあった。jaq-nvimは逆にNeovimでしか動かない代わりにfloat windowで表示できる。 設定では実行したい言語のコマンドを指定するほか、ウインドウの枠や位置を自分の好みに決められる。どうせターミナル上にいるのだからタブを開くなり、tmuxのpaneで別途実行するなりすればいいという意見もあるが(僕も昔はそう思っていた)、多少なりともワンクッションの手間を減らせる効能は意外にあなどれない。以下に設定例を示す。 Read more

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