2022/10/15

超ミニマルなZshプロンプト「typewritten」

以前、この記事でPreztoに付属するPureというプロンプトを紹介したが、最近よりミニマルなものを発見したので共有しておきたい。typewrittenは特に機能性を求めず、極めて簡素な外観を好む人に最適な選択肢だ。 導入はnpmまたはマニュアルで行う。前者は動作に必要な記述を自動で行ってくれるので楽。ただし、後者の場合でもパッケージをクローンして数行の設定を.zshrcに足すだけですぐに使える。 1#このコマンドで導入した人は以下二つの工程は不要 2$ sudo npm -g install typewritten 1#マニュアルダウンロード 2$ mkdir -p "$HOME/.zsh" 3$ git clone https://github.com/reobin/typewritten.git "$HOME/.zsh/typewritten" 1#.zshrc 2fpath+=$HOME/.zsh/typewritten 3autoload -U promptinit; promptinit 4prompt typewritten 導入後、source ~/.zshrcで.zshrcを読み込み直すと本記事冒頭のgif画像のような外観に切り替わっているはずだ。 typewrittenはミニマル仕様のプロンプトではあるものの、デフォルト設定が気に入らない場合は部分的に変更することもできる。設定は.zshrcに追記する形で行う。例えば、TYPEWRITTEN_PROMPT_LAYOUT="half_pure"と書き加えるとGitのステータス表示をシンボルの上部に移せる。 Read more

2022/10/07

人生やり直せるからって勝ち確だと思うな

 急な話で申し訳ないけど君は人生をやり直せることになった。現在の人格と記憶を保ったまま、任意の過去の自分に時間移動できる。いわゆるタイムリープってやつだ。君がよく知るであろう言葉で表せばね。ああ、僕が誰かは気にしなくていいよ。問題はやり直したいかどうかだ。今の自分にすっかり満足しているなら断れるが……どうせ断らないだろ? 僕調べでは対象者の七十三パーセントが五分以内に合意している。誰しも人生に不満はあるものだね。さあ、まずはいつ頃の自分に戻りたいか決めるといい。 ただし、新生児まで戻るのはおすすめしないな。いくら成人相当の人格が備わっていても、肉体が未発達だと不測の事態を避けられない場合があるからね。赤ちゃんの君は大人の腰の高さから落ちただけでも死にかねないぞ。それに、新生児は口蓋も咽頭もろくに機能していないから発話が難しい。食事の内容もえらく乏しい。おまけに年単位でベビーベッドから出られない。外出時はたいていベビーカーだ。 要するに行動の自由が皆無で、日々の食生活は単調で、会話も運動も趣味も行えない。これって大人相手にやったら普通に全然拷問だと思う。こんな暮らしがだいたい二年は続く。その間に精神が荒廃しない自信があるか? 僕にはない。 というわけで、繰り返すが新生児はおすすめしない。少なくとも二足歩行が可能で、行動に最低限の裁量が与えられていて、本くらいは読める肉体が望ましい。かといって就学年齢ギリギリに戻ると今度は人間関係のつまらなさに萎えるかもしれないけどな。「頭脳は大人」で有名なあの名探偵が小一のガキと会話してて死にたくならないのが僕には不思議だよ。 いっそ不登校児にでもなろうか? なにしろ君の人格はすでに完成している。わざわざ義務教育をやり直す必要はないかもしれない。君の両親の物分かりが揃って良かったら、理屈のこじつけ次第では楽しい不登校ライフも実現できそうだ。だがまあ、無理なら諦めてせっせと通うんだな。教育方針の対立や不振が家庭内不和を引き起こすこともある。下手な変化を起こさないのも二回目の人生では大切だ。 もともと不登校だったって? なら、せっかくの二回目だしハードモードにチャレンジしてみたらどうだろう。これは下手な変化とは限らないぞ。 人生をどうやり直すかは人それぞれとはいえ、以前と異なる職に就きたいならそれに応じた資格や学歴を目指さなければいけないし、かつて夢破れた甲子園や国体に再挑戦するならもっと早く運動に取り組まないといけない。単純に金が欲しいだけでも種銭は必要だ。百倍に上がる株を買っても元手が百万円ならリターンはせいぜい課税前の一億円にしかならない。あるいは、仮想通貨の歴史に明るい人は2010年あたりからビットコインの採掘を始めるかもしれないな。その場合でもできるだけ性能に優れたコンピュータが欲しい。 そう考えると不登校ライフも延々と続けるわけにはいかなくなってくる。スポーツ選手にしろ高給取りにしろ、そこに行くまでの道のりには学校生活が大きく関わっている。言わずもがな、高校以降は学校での交友関係も侮れない。そういう時期に形成した人脈はやり直し後の人生でも役に立つ。人生二回目の君は、おそらく友人選び一つとっても損得勘定を働かせずにはいられなくなるはずだ。ゲームだって二周目は効率的なプレイングに寄りがちだしな。 だが、やりすぎるなよ? あまりストイックに振る舞いすぎれば、それはそれでただの嫌なやつとして敬遠される。貴重な二回目の学生時代をそんな最悪の印象で終わらせたくないだろ。人生のやり直しを扱った物語だと雑に省略されがちだが、いじめっ子やムカつく輩をスパーンとやっつけて済むほど現実は簡単じゃない。いくら二回目でも針のむしろみたいな人間関係に囲まれて暮らすのは相当しんどい。 未来の情報は君が持つ最強兵器に違いないが、それにしたって2022年以前に留まっている。現時点で君が死にかけの老人でなければ、やり直していくらか経てば2022年を再び通過していくことになる。以降はまた手探りの人生だ。たとえビットコインで億っていても決して安心はできない。いつ税制が変わるか判らないし、何十年か後に共産主義革命が起きない保証もない。じゃあ、どうする? 余裕のあるうちに、あらゆる状況に対応できるような知識を身に着けて備えるしかない。 ここで話は少年少女の時期に戻る。自由時間が多い子どもの間に、とにかく勉強しておく。これが結局のところモアベターだ。オリンピック出場の夢が叶おうと、東大理三に合格して医者になろうと、それ一本で一生安泰とは言いがたい。本の虫になったからといって未来予測に長けるわけじゃないが、徒手空拳で挑むよりはずっと有効打が期待できる。あー、やっぱり勉強って大事だね。なんだかむっちゃ深イイ話で締められそうだな……。 そんなこんなで色々納得して本を読みだした人生二回目の君。さしあたりは歴史でも学び直すか……と思いついてページをめくると、そこで強烈な違和感に気づく。あれ? なんでアドルフ・ヒトラーが画家なんだ? 独裁者だったんじゃ……ん? 『9.11』って、たしか飛行機がビルに突っ込んだテロ事件だったよな? ……なんでニューヨークが焼け野原になってんだ? Read more

2022/09/30

書評「われら」:ディストピアSFの嚆矢

はじめに 巨大国家ないしは企業による執拗な管理統制、秩序が過剰に行き届いているがゆえの圧政、支配に慣れきった登場人物たちの狭量、諦観に満ちた思考様式――これらは俗にディストピアSFと呼ばれるジャンルが共通して持つ要素である。天を衝く勢いで異常発達した高層建築群や、都市機能を支える緻密な社会インフラ、高度な科学技術、それらの合間合間に点在する監視装置の存在もまた、ジャンルに馴染み深い象徴として知られている。 Read more

2022/09/16

ノイズキャンセリング

 その洞穴は足腰まで浸かる水たまりを越えた先にあった。両脇を切り立った高い崖に囲まれ、道は狭く、反対側は鬱蒼と茂った山の森林に遮られている。ゆえに侵入経路はここ一つしかない。昨夜の雨露と思しき雫が両脇の崖を伝って落ち、できあがった水面が陽光をてらてらと反射している。 ウィリアム・ソイル隊長率いる王家の守護隊〈ロイヤルガード〉は崖の手前に整列していた。黄金色の輝きを放つ板金鎧と兜に身を包んだ金髪碧眼の剣士が五名、馬車に運ばせた梯子で崖の上に登った弓兵も他に十名いる。 しかし、剣士たちが洞穴にすぐ歩を進めることはなかった。まず歩を進めるのは、彼らの前に無造作に並ぶ汚い身なりをした十数名の男たちだ。実のところ、元は正確に何人だったのか守護隊長は覚えていなかった。道中で逃走を試みて処刑された者が数名、獣に襲われて重傷を負ったために捨て置かれた者が数名いて、もはや頭数の把握に意味はない。 「よし、貴様ら。彼方に見える洞穴に例の怪物――セイレーンが棲んでいる。この中の誰か一人でも見事それを討ち取ってみせたなら、貴様らはみな自由の身となるであろう」 ウィリアムは威厳を込めた声で高らかに宣言した。体じゅうを泥や土埃で汚し、ボロきれを着込んで防具の一つも身に着けていない男たちは、それでも目を爛々と輝かせている。万が一の成果を期待してなまくらの剣を握らせたが、剣術の心得がある者は一人としていないことを隊長は知っていた。 「セイレーンって、あの神話のセイレーンだよな……下半身が魚で、上が美女だとかいう……」 「なんでそんなのが洞穴にいるんだ。海にいるんじゃねえのか。へっへっ、旦那ァ、もしよければだがよう、そいつ、殺す前に俺らで犯しちまっても構わねえかい」 もともと歪んだ顔をさらにひどく歪めながら、一人の男が言った。他の男たちも同調してへらへらと不敵に笑った。 「……ああ、構わんとも。好きにするがいい」 やれるものならな。 ウィリアムは侮蔑の態度を露わにしないよう注意を払った。 「貴様らの任務はとにかくセイレーンを殺し、彼女が守る金銀財宝を我らが王の下に結集せしめることだ。われわれも後に続く。さあ、行け!」 守護隊長の号令とともに男たちはどたどたと洞穴に向かって駆けだしていった。多少の間をおいて〈ロイヤルガード〉も進軍した。 「今回のやつらは強姦魔や物盗りの類だ。前ほど長くは持たない。〈ロイヤルガード〉、抜剣しろ!」 すうっと優雅な音をたてて鞘から次々と引き抜かれたその剣には、きらびやかな赤と青の宝石がはめ込まれている。刃は白金のごとき美しさで、汚れ一つついていない。 ウィリアム守護隊長は笛持ちに目配せをした。角笛が短く二回、長く一回鳴らされると、崖の上の弓兵たちはすばやく弓に矢をつがえた。洞穴の奥に蠢く人影が見えたのだ。 セイレーン……南方の伝説によれば歌声と美貌で船乗りを魅惑し、海底に引きずり込んで食い殺そうとする海の怪物だという。少なくとも、南方では……。 ついにセイレーンが姿を現した。 裸体に金、銀、ありとあらゆる宝飾品を巻きつけているものの、骨と皮しかない痩身の貧しさはいかんともしがたく、生気の失せた青白い顔には濁った灰色で塗りつぶされた眼、口には黄ばんだ歯がまばらに生え、唇はあるのかないのか判然としないほど薄い。もちろん、下半身は魚ではない。あまりの醜さに囚人たちも動揺を隠しきれない様子だった。 彼女はぎょろぎょろと周りを見渡すと、眼前に群がる男たちに口を歪めて威嚇のうなり声をあげた。 「各自、防御体勢をとれ!」 守護隊長の指示に従って〈ロイヤルガード〉は兜で守られた頭部をさらに板金鎧の両腕で覆った。またある者は、崖の壁面に退避した。一方、事情を知らされずにいる囚人たちは牙も鉤爪も持たない怪物と見て油断したのか、彼女に向かって我先へと突進していった。しかし、足腰まで浸かった水たまりのせいで誰も思うようには接近できていない。じゃばじゃばと足で水をかく音ばかりが威勢よく響く。 一旦、ウィリアムも進行を諦めて壁面へと逃げた。後の結果はあえて見るまでもない。前回も、前々回も、見たからだ。そう、彼女の口が、あたかも虚ろな顔を占めるかのように大きく開き……。 ――キイイイイイイィィィィィィエエエエエエエエェェェェェッ!!!!!!! 頭蓋を突き刺す呪いの悲鳴が耳に押し入ってきた。板金鎧がぐわんぐわんと共鳴し、頑丈な岩でできた崖にも亀裂が刻まれた。不運にもセイレーンの悲鳴の直線上に立っていた囚人たちは、口、鼻、耳の穴という穴からおびただしい量の血を吐き出した。陽光で輝く水面は一転、鮮血で真っ赤に染まった。たまたま範囲外にいた囚人も無事では済まず、頭を抱えてうずくまる者が続出した。 「弓兵!」 残響でほとんど聞こえなくなった耳に構わずウィリアムは崖の上に向かって叫んだ。幸い、弓兵たちは聴力を失うほどの被害は受けていなかったらしく、守護隊長の命令に応じて即座に矢を放った。矢は十本のうち二本が巻きついた金、銀、宝飾品の隙間を通り抜けてセイレーンに突き刺さった。ぎえっと汚い声を漏らした彼女はしかし、全身を器用にくねらせて崖の上の弓兵たちを睨みつけた。守護隊長は急ぎ回避を命じようとしたが、間に合わなかった。 二回目の悲鳴は崖の上の弓兵を直撃した。大半は即死し、何人かは遁走を図って崖から転落した。蛮勇に長けた数名は命と引き換えに反撃の矢を射たが、放たれた矢は金縛りを受けたかのように彼女の眼前で留まり、ややあって粉微塵に粉砕された。 その間、ウィリアムは板金鎧と水の抵抗に阻まれながらも全力で前進を続けていた。宝石のきらめく美しい剣がセイレーンに振るわれた時、かろうじて彼女の口は開ききっていなかった。その喉笛が膨らむ寸前に城打ちの鋭い刃が首筋を切り裂いた。一太刀で断ち切られた頭部が、宙を舞って水たまりにぼしゃんと落下した。主を失った胴体は溺れた人の振る舞いでしばらく暴れた後、急速に静まった。 「なんとか、やりましたね……」 〈ロイヤルガード〉の剣士たちが守護隊長に近寄ってきた。剣士の一人がセイレーンの濡れた生首を掴んで、高らかに掲げた。とはいうものの、五体満足に生き残っているのは板金鎧と兜に身を守られた〈ロイヤルガード〉だけで、囚人たちと弓兵はいずれも死んだか、手負いの者しかいなかった。 「いや、無駄骨だった……帰るぞ」 討伐の成功に一瞬、表情を緩めかけたウィリアムは洞窟の奥に目をやって再び顔をこわばらせた。セイレーンが、もう一体現れたのだ。黄金色の板金鎧をがしゃがしゃと言わせながら〈ロイヤルガード〉の剣士たちが逃げ出す最中、半死半生でもがいていた囚人たちの怨嗟の声がこだましていたが、崖から離れると耳に届かなくなった。だが、セイレーンの悲鳴は遠くでもはっきりと聞こえてきた。 Read more

2022/09/10

レスバ欲に抗う

赤の他人に議論を持ちかけてまともに成立することはまずありえない。理想形の議論を完遂させるには相手との信頼関係が必要不可欠だからだ。あけすけな言い方をすれば、友好を損ねたくない後ろめたさこそが議論を成り立たせていると言える。むろん、赤の他人相手にそんな余地は存在しない。 ましてや議論をふっかけてくる赤の他人はただの赤の他人でさえない。初っ端から意見が対立している。つまり敵だ。エネミーだ。好感度はゼロじゃない。マイナスからのスタートだ。そんな相手と取っ組み合ってなにかが得られると勘違いしてしまったのがインターネットの罪悪であり、レスバ戦士どもの夢の跡というわけだ。 Read more

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