もし身体性から解き放たれた電脳世界に行けるのなら、僕は球になりたい。女の子でも動物でも怪獣でもなく球になりたい。色は任意のツートーンカラーで、目も耳鼻も口も手足も備えず、地面から2フィートほど浮いて漂っていたい。各々の計算資源によって毎分毎秒維持され続ける美少女の群れの中で僕はただ一個、意味もなくミニマルを気取っている。環境光さえ計算に入れていないものだから、どこから観察しても僕を彩るツートーンカラーは変色しない。ピンクとオレンジの日に僕と出会った人は、どの角度で対面しても#F8ABA6か#FFA500しか見えない。薄暗いムーディーな空間に移動しても、僕のモデルは決して暗がりに溶け込まず逆に浮き出て映る。普通に雰囲気がぶち壊しになるのでブロックされやすい。
数ある都市伝説やSFの類型でも「空飛ぶ円盤」ほど古典的なものはそうない。いわゆるUFOってやつだ。歴史を遡れば世界大戦にすら登場しているぐらいだから、きっと古事記にも載っているのだろう。ところで僕はUFOと聞くと、なぜかいつもアメリカの田舎の牧場が思い浮かぶ。夜中になるとUFOがふわふわとやってきて、牧場の牛を吸い上げてしまうんだ。おそらくはこれも人生のどこかで挿入されたステレオタイプに違いない。当然、映画史においてもUFOは長らく主力の題材であり続けた。SFはもちろん、ホラーにしてもよし、ファンタジーにしてもまあよし、なんならどのジャンルだって構わない。初っ端から派手に地球を爆撃してもいいし、思わせぶりに出たり隠れたりしてもいい。こんな好都合なものがアルファベット3文字で表せて、世界中のどの老若男女にもおおむね同一のイメージを想起させるなんて滅多になさそうな話だ。
以前にこういう話 があった。かいつまむとVPSの運用を放棄したために他のメールサーバを探さなければいけなくなったのだ。僕はすでに独自ドメインのメールアドレスを12年以上運用しており、今さらGmailなどのフリーメールに鞍替えする余地は残されていない。そこで、前回の時点で最終的に選んだホスティングサービスがmailbox.org というところだった。このサービスの嬉しさは価格が圧倒的に安いことだ。わずか月額1ユーロでIMAP/POPアクセス可能、かつSPF/DKIM/DMARC対応。要するにSparkやThunderbirdといったメールクライアントから利用できて、重要なセキュリティ関連の認証にも対応している。とりわけ後者は必要不可欠だ。グレーの公衆電話でインターネットをしていた時代ならいざ知らず、今時これらに未対応のメールは即刻迷惑メールボックス送りにされても文句は言えない。
あれは保健の時間のことだった。はっきりと覚えている。ただでさえ学年合同授業はちょっとした珍事だ。ひんやりとするアルミ天板の大きな机が並ぶ総合室で、年老いた先生がのろのろと聴診器を配っていた。聴診器は隣り合った子と二人一組の割り当てらしく、僕は不用意にくるくる回る円形のスツールを両手でがっちりと抑えながら相手の子と向き合った。その子はさらなる慎重さでスツールの回転機構への不信任を露わにして、一旦立ちあがってから姿勢を変えて座り直した。先生の話によると、今日は心臓の動きを観察する授業とのことだった。告げられたページをめくろうと机の上に手を伸ばすと、相手の子が「ううん、私が」と言って教科書を開いて見せてくれた。ポップでコミカルな外枠のデザインとは裏腹に、聴診器をあてがわれた人体図の写実感は少々不気味ですらある。目をそらすと相手の子の名札が視界に入った。千佳ちゃんと言うようだった。「うえーい」遠くの方でガキ大将のバイソンがスツールを高速回転させて、取り巻きとはしゃぐ大声が聞こえた。さっそく先生はのそっと腰を浮かせて注意に向かったが、このぶんだと彼の場所までたどり着く前に定年退職を迎えそうな印象を受けた。案の定、バイソンの悪ふざけを皮切りに治安が乱れて、ちらほらと雑談を交わしたり立ち歩いたりする子たちが現れはじめた。