2022/07/04

個人情報と引き換えに得たもの

日本國政府による個人情報切り売りキャンペーンが目下実施中である。なんでもマイナンバーカードと呼ばれる特に使い道のない板切れを取得した後、健康保険証と銀行口座情報を献上すると畏れ多くも最大2万円分のマイナポイントが下賜されると言う。マイナポイントはPayPayをはじめとする各種決済サービスのポイントと交換することができる。すなわち仮想の諭吉と英世だ。 僕はマイナンバーカードの取得を条件に得られる5000ポイントを既に拝領済みだったため、今回の事業で新しくもらえるマイナポイントは15000ポイントまでとなる。日頃、Arch Linuxとかいう異常者専用ディストリを常用し、公共Wi-Fiに接続する際はVPNを欠かさない程度には自由とプライバシーに敏感なのに、わずか15000円ごときであっさり個人情報を明け渡してしまうのだから文字通り現金なものだ。 Read more

2022/06/24

2022年参議院選挙 既成政党以外まとめ

本エントリは2022年の参議院選挙に立候補する既成政党以外について記す。既成政党とは国政に議席を有しているか、もしくは直近に有していたことがある政党を指す。そういう権力を持った強い存在は勝手に誰もが注目するだろうから、ここは一つあえて珍獣のうなり声でも聞いてやろうといった趣向である。 参政党 ■思想傾向:右派 ■特徴要約:反ワクチン、自然主義 今回の選挙で本当に議席を獲ってしまいそうな勢いを持つ政党。5万超もの党員数を誇り、全国的に候補者を擁立している。 「ゴレンジャー」 と呼ばれる5人の著名人(武田邦彦氏など)を事実上の指導者とし、独特の言い回しを用いた演説を得意とする。各地の街頭演説で多数の聴衆に囲われている様子を見るに、実際にこの手法は効果を発揮しているようだ。 Read more

2022/06/14

文明崩壊後の世界を救う「Collapse OS」

特に読まなくてもいい三文小説 かつては高層ビルの一部だったと思われるその地下階には、わずかながら備蓄食糧が残っていた。きっと以前は大量に用意されていたのだろう。私は手持ちの雑嚢に二、三個ばかりの缶詰を押し込み、急ぎ地上に帰還した。食糧がありそうな場所には賊が現れやすい。いざとなればこの肩に回した小銃――の模型――しかも廃材を組み合わせて作ったガラクタ――にものを言わせる手もあるが、向こうの頭数次第ではそれも通用しなくなる。被弾覚悟で襲ってくる恐れが否めないからだ。そして万が一、模型とバレた暁には―― 私は倒壊した複数のビルによって形成された裏道を歩きながら、ひとり身震いした。 西暦2037年。未曾有の大災害から十余年経つ。生活のほとんどを電子やギアの運動から成る産物に依存していた私たちの世界は速やかに崩壊した。当時の私はプログラマを志す学生だったが、もうその夢が叶うことはない。日々、生きるための糧を探してさまよい歩くだけの些末な人生だ。 様々な地下施設を巡る過程で稀にコンピュータの残骸を見かける時があっても、もはや私の心は微動だにしない。いま私がもっとも欲しいのは確実に腹と脳髄を満たしてくれる糖分……一枚の板チョコでもあれば、他にはなにもいらない。 「ちょっとそこのお若いの、待たれよ」 突然、視界の外から話しかけられて私はとっさに模型の小銃を構えた。銃口の先には灰色のフードを深くかぶり、背をひどく曲げた老人が佇んでいた。 「おう、おう、そんな野蛮なのは下ろしなされ。わしはただの行商人。物々交換をしながら旅をしちょる」 老人は異様に膨らんだ外套の懐を手のひらで軽く叩いた。 「交換できるものなんてなにも持っていない」 私は小銃を構えたまま冷たく告げた。 「いや、わしは見とった。さっき地下から戻ってきたばかりじゃろ。なにか食糧があれば――」 「ないと言ったらない」 私は繰り返し即答して後ずさった。このご時世に食糧と引き換えたいものなどあるわけがない。 「話は最後まで聞きなされ。……では、これはどうかな?」 私の目は限界まで大きく見開かれた。模型の小銃が手からおのずとこぼれ落ち、スリングベルトに頼って腰のあたりでぶらぶらと揺れた。 眼前の老人の手に握られていたのは、まさしく私が欲していた板チョコだった。 「……なにと交換したい」 フードに顔の大半が隠されていても老人が笑みを作ったのが判った。 「缶詰一個。乾パンだとありがたい」 ぐううっ……高い……いくらなんでも……乾パンの缶詰一個なら丸二日は空腹をしのげる……いや、しかし……だが……。 「……無理だ。その条件では……」 私は全身が発する糖分の欲求になんとか打ち勝った。うまく食糧を見つけられず餓死寸前の状態で危険地帯を歩き回っていた頃を思い出せば、とてもじゃないが缶詰とは交換できない。 「そうか、では残念じゃが……またの縁があれば」 老人は板チョコを懐にしまい、フードをさらに深くかぶり直して踵を返した。ああ、チョコレートが遠のいていく……。 「おっと、忘れとった」 十歩ほどいったところで、急に老人が振り返った。 「これは会う人みんなに聞いとるんじゃが――おぬし、これがなんだか分かるかの」 一瞬、老人が懐から再び板チョコを取り出したように見えたので、私は馬鹿にされているのかと思って怒りだしそうになった。しかしよく見るとそれは長方形ではなく正方形に近い、樹脂製らしき硬質な物体だった。しばし考え込んだものの、ほどなくして答えに思い当たるとひどくがっかりした。少なくとも食べ物ではないからだ。 「……フロッピーディスクだ。それは」 今度は老人の目が見開かれる番だったらしい。老人は深くかぶったフードを自らの手でがばっと剥ぎ取り、その萎びた白い頭髪を露わにした。 「フロッ……ピーというのか? これは? おぬし、これがどういうものか分かるのか?」 「ああ……分かる。私が生まれる前によく使われていたんだが……あー、なんと言えば……要するに、情報を保存するためのものだ。どうせ今は壊れている」 いや、本当に壊れているか? 保存状態さえ良ければ、磁気メディアなら十年くらい持つ可能性は、ある。 「……板チョコをやる。缶詰はいらん」 どういう風の吹き回しか、老人は本物の板チョコを取り出して近づいてきた。歩きながら、老人は話を続けた。 「代わりに……このフロッピーとやらを……持っていけ。それが条件じゃ」 「そんなのを持っていてなんになるんだ? 中身も分からないし、確かめようもない」 「今すぐでなくてもいい。いつか、きっと救いに――人類の救いになると、これをくれた人が言っとった」 ついに老人は私の間近まで迫り、チョコレートとフロッピーディスクを半ば押しつけるようにして手渡してきた。渡し終えると、老人はすぐに立ち去った。その身のこなしの軽さからは、まるで生涯の仕事をやり遂げたとでも言いたげな清々しさが感じられた。 私は手元に残されたフロッピーディスクを見た。表面に設けられた記入欄には、昔の人々がそうしていたようにボールペンかなにかで文字が書かれていた。もしかすると、中身に関する情報かもしれない。 『Collapse OS』 OS――基本ソフトウェアのイントールディスクなのか、これは。そのあまりに自己言及的な、皮肉めいた横文字を見て、腹の奥底から奇妙な笑いがこみあげてきた。 以来、私の人生に新しい目標ができた。このOSを動かせるコンピュータを見つけるか、作る。どんなOSなのかは知らない。フロッピーディスクが生きているのかも判らない。だが、私の心は今や板チョコではなく、それと似た模様を持つキーボードの方を強く求めている。 …… Read more

2022/06/06

マンション自治会怪異退治係

 昼下がりの静寂を突き破るがごとく打ち鳴らされたチャイムに、僕は結構な怒りを覚えつつ応じた。例えるなら「はあい」と「あ゛あ゛?」の中間をとったぐらいの感じだ。 やや大げさにドアを開け放つと、そこにはいつか見たような顔つきの老人が立っていた。記憶は曖昧だがきっと同じ階の住民に違いない。瞬時に公共的な表情を取り繕った僕に、それを知ってか知らずか老人はぶっきらぼうに言った。 「あんたに決まったから」 「はい?」 「自治会の」 「ん?」 「アレの係にだよ」 「……と申しますと?」 会話を三往復したのに有益な情報はてんで手に入らなかった。いまいち要領を得ないなと訝しんでいると、驚くべきことに当の老人はもっと呆れた顔をしていた。どうやら要領を得ていないのは僕の方だと考えているらしい。歪んだ形の口元からハア、とため息を漏らすのが聞こえた。 「あんた、ここ住んで何年目?」 「今年からなので……まあ、半年くらいですかね」 「ここに入った時の契約書覚えてる? 自治会に強制加入なんだけども」 「ええ、それはもう、はい」 言われて初めて思い出したのは内緒だ。自治会という組織があれこれやっているのは知っているが、その一員に僕が数えられていたのは正直言って心外でしかない。こういうのってボランティア活動とかが好きな人たちの間で勝手に回っているものじゃないのか。 「昨日あったんだよ集会が。あんた出てなかったみたいだけど」 「昨日? ――まあ、色々忙しくて、はい」 初耳だ。 「それであんたがアレの係に決まっちゃったんだよ。いなくてもくじ引きで決まっちゃうからさ、こういうのは。だっていないから抜かそうなんて言ったら、来てる人の方が損するだろ」 「ウーン、なるほど。それで、アレというのは?」 これでまた話をそらされたらどうしたものかと思ったが、ついに老人は明確に回答をよこしてくれた。 「『怪異』の退治係。出るんだと、来週中に。会長のお告げだ」 「はあ?」 もっとも、回答が明確だからといって僕の理解が及ぶかどうかは別問題なのだけれども。 Read more

2022/05/25

人を増やすことのろくでもなさ

少子化はなにも日本に限った話ではない。中国や韓国もそうだし、アメリカやEUもそうだ。およそ先進国とは呼べない経済規模の国でさえ、出生率は減少傾向にある。極めつけは上記の画像だ。13億人超もの国民を誇り、間もなく中国の人口をも抜くと言われているあのインドが、とうとう人口置換水準を下回ったのである。 人口置換水準とは文字通り、その地域において人口を維持できる合計特殊出生率の値を表している。大抵は2.0とちょっとをキープできていれば均衡的と見なされるが、件のインドの数値はジャスト2.0。つまり今後これが回復しなければ、インドはいつの日か少子化に突入してしまうのだ。かの巨大国家でも人口減少には抗えない。この絶望的な事実をどう捉えるべきかちょっと考えてみたい。 Read more

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